非恋愛主義



クジラ女 ヒモ女 いき急ぐ女 ロデオガール カバ女 うに女 ウマ女

クジラ女

サトシは今33歳で未婚。なじみの遊女と会わなくなって一年と三ヶ月、さほどの情熱もなく、ほとんど惰性で遊蕩にきていた。何故、女が欲しくなるのか?肉慾なら別に相手はいらない。アナルの快感なら自分で掘った方が痒い所に手が届くし、女陰のイメージならネットで実物以上に鮮明画像が手軽に見られる。気分に応じて今日はブロンドヘアのローティーン外人がいいと思えば、そういうイメージも簡単に転がっている。自分の好みのイメージと的確な性感で官能できれば、それで性欲は持たされるはずなのに、ときどき本物のホルモンシャワーを浴びたくなるというのも、サトシがまだ若く健康なゆえなのかもしれない。

山手線外回りで遊郭に向かうのは意外と初めてで、気ままな旅気分となったサトシは、ふと駅の売店でケーキをお土産に買った。それをおいしそうに頬張った女は千葉出身のA型という。血液型に関心があるようで洞察力でサトシの血液型も見破った。
「服の脱ぎ方がいかにもO型だし、O型って自分にすごく厳しくて、現実主義者なんですよ。だからAとBだけだと滅びちゃうんですけど、そこにOがいると大丈夫なんですって」

珈琲の芳ばしい香りに惹かれてサトシは帰り途、フラフラと交差点にあった店に吸い寄せられた。そこでさきほどの情事の余韻に浸っていた。
潮吹き。初めて感じた股間にジワーッと広がるお湯のようなおしっこのような温かい感覚。
「おいおい漏らすなよ…困ったなぁ、後でよく洗わなきゃ…アレ?この子全然気づいてないや」
サトシの心のうちにあった言葉をそのままセリフにするとそんな感じ。
それは一度ではなく、事が終わる五分前くらいに立て続けに二、三度あった。いわるゆスケベ椅子にサトシが座って、女を上に乗せていたときでも吹いたし、そこからベッドに戻った後にも派手に吹いていた。背中の汗がベッタベタで、かなりの汗かきと見た。
「痩せなきゃって思ってるんですけど…」
と女は気にしていた。
「いや、名器を持ってるから、このままでいいんじゃないですか」
とサトシは褒めておいた。それは実際にバラの花のようにヒダが大きく開いて、形の整った女陰だった。
サトシの方もずっと硬くなって、上向いたままだったので、女もフェラしながら、
「下向いてくれない…」
と苦しそうな姿勢でその充血ぶりに感嘆していた。冷房は効いていないこともなかったが、女はしきりに暑いと訴えていた。
当初、女の括約筋は口のようにサトシの指も陰茎もキュッと締め付けていたが、潮吹きの後は痙攣してヒクヒクと絞めたり緩んだりしていた。これだけ括約筋があるのに、漏れるというのは締まりがいいのか緩いのかわからない。はたまた筋力とは関係ない自律神経の問題なのか?とサトシは科学的なことを考えていた。
女はドッキングしながら食べられそうなほどサトシに激しくキスしてきたが、帰り際、外の廊下でも自ら好意に満ちたキスをサトシに求めてきた。気持ちのいい性交のお礼なのだろうか、とサトシは快くキスに応じた。

潮吹きとは呪いなのか?一ヶ月後、サトシは激痛で歩けないほどの坐骨神経痛に見舞われた。

ヒモ女

サトシは料金の安い時間帯を狙って、すぐ入れる子の写真の中から、年齢とスリーサイズで一次審査して、団子みたいに髪を結い上げて、一見セレブのようなルックスの女を二次審査で選んだ。だいたいこんな写真は修正しまくりだし、数字もサバよみまくりとサトシは考えていた。
階段から降りてきた女は意外にも写真よりよく、目鼻立ちも容姿も日本人離れして、昔みた米国ロックバンドのMVに出てきた金髪美女に似ていた。話し方もどことなくぎこちない日本語で異国情緒が漂っていたので、サトシは国籍を聞いてみた。
「父さんは日本人で、母さんはロシア人。二人ともアメリカに住んでます」
女の顔でまずサトシの目を引いたのは眉で、極細ペンシルで一筆に描かれていた。いつか電車の中でかなり年配のおばさんがこういう眉をしていたのを思い出して、サトシは妙な親近感を覚えていた。
「あの…90分コースに変更してもいいですか?」
意外な異国情緒が気に入ったサトシは事に入る前に延長を申し出たら、女は戸惑った顔で、
「ボーイに聞いてみないと…」
しばらく電話のやりとりして、電話を切った途端、女の表情は一変して、突っ立っていたサトシの首に腕を回してハグしてきた。この変わりようはさすがプロだなと彼が感心していると、次に女は衣装を脱がせてほしいとサトシを誘導した。そのいかにもセクシー系のワンピースはデニム生地に革が貼ってあって、胸元で靴紐のように結わいてあり、どうやって脱がすのかサトシが戸惑っていると、女はさっさと自分で脱いでしまった。その下はふつうに水色のブラとショーツで外側とは裏腹にさわやかな印象だった。
ブラの外し方なら…とサトシは後ろのホックに手をかけると、案の定、すぐに外れた。バストは日本人としては平均的な大きさで、ここはロシア系ではないようだ。団子に結っていた髪も解いてしまうと全体がカールしていた。サトシがショーツを膝あたりまで降ろしてあげると、女は彼の肩をかりてバランスをとりながら自分で脱いだ。そこでサトシの目に入ったのは、水色のショーツに細くかすれた血跡だった。そして次に目に留まったのがショーツを脱ぐ時に上げた足の親指の爪。ずいぶん深爪というか、時々、そういう象のような爪の人がいる。あの眉毛とこの爪がなければルックスは満点だったのに、とサトシは採点していた。
女はサトシを洗い場の椅子に座らせると、いきなり生尺しはじめた。
「もうこんなにおっきくなってる」
その卑猥な目はすでに先ほどまでとは打って変わって野獣の目になっていた。
「あれ、洗わないんだ…この子、どこまで店のルール知らないんだろう。それとも生理からの開放感なのか?」
サトシは女の積極性に同調して、すぐにベッドプレイにいざなった。
今日のサトシにはひとつ決め事があった。それは女陰を見ない、舐めないこと。手での愛撫はOKだが、それもすぐに終わりにして、さっさと挿入に入った。

茶臼でしばらく揉み合ったあと、サトシははめたまま女とともにさっきの洗い場の椅子に移動した。突然、身体がふわっと浮いたので、女は最初、動揺していたが、椅子に腰をおろすと安堵して言った。
「なれてるー。あそんでるなー」

イッてしまうと、二人はベッドの隅に並んで体育座りの格好で、ずいぶん長いこと話をした。
「あなたって面白いひと!」
会話の弾み方でサトシには女がリラックスしているのがわかった。きくと女はB型だといい、意外にも読書が趣味といい、太宰治の『ヴィヨンの妻』が大好きと言っていた。
「どんな話だったっけ?」
サトシもその名前くらいは知っていたが、内容についてはあまり記憶がなかった。
「自分の妻を酒場で働かせて、その店に自分が出かけていくっていう」
「え、それのどこがいいの?」
「その妻が働いてる姿が新鮮なんです。最後に「人非人でも生きていさえすればいいのよ」っていうセリフがあって、すごい好き」
もしかしてこの女にもヒモがいて、せっせと貢いでるのかもな、とサトシは想像した。

愉しい時間はあっという間に過ぎて、気がついたら時間もあと二十五分だった。
「もう一回やりますか」
サトシが促すと、女は、
「どういう格好がいい?」
と聞いてきたので、
「またさっきと同じ感じで」
とサトシが下になって、女に上になってもらったが、文学の話などしたせいか、なかなか大きくならない。
「だいじょうぶ」
女は口を使って、サトシのものを入る硬さにした。挿入するや、女は眉間にシワを寄せて、目をつぶって、辛そうな表情をしていたが、サトシのものは萎えがちで、彼は必死になって女の腰を揺さぶった。
サトシが腰を止めたとき、挿入して十分くらい経っていた。
「やっとイッたようです」
そこで見計らったように催促の電話が鳴った。洗ってる時間がないので、サトシは自分でさっと流した。
「名刺くれないですか?」
サトシが聞くと、
「そういう営業はしてない」
と女は断った。どうやら女は指名ではなく、フリー専門の営業スタイルらしい。
「これで本でも買ってください」
帰りがけ、サトシは女にチップを渡そうとした。大した額じゃないのに女はまたしても戸惑っていたから、胸の紐の隙間に札を挟んでやると、女は最初にしたようにハグして、今度は頬にキスした。

いき急ぐ女

浴槽の中で女はサトシのものを尺八したが、まったくイヤらしい感じがない。風呂から出てベッドでの愛撫に入ると今度はサトシの手の指を一本ずつ口に含んだ。そのルーティンワークを終えると、女は無言のままゴムをつけて、自らサトシを迎え入れようとした。そのときだ、
「あーっ、あーっ、あー!」
意外なタイミングで起こった動物的な喘ぎ声。
「もう待てない!ああ、ちんこが欲しい、入れたい、食いたい!」
そういう声に聞こえたサトシは、それまでの女のクールさとのギャップに驚いた。女の喘ぎ声のほとんどが演技だと考えているサトシにとって、この挿入直前の喘ぎはちょっと新鮮なリアルさだった。
茶臼の姿勢で十五分入れたままでいると、女の背中にはうっすらと汗が浮かんできた。
「いきそう…」
という女の言葉の真意を察したサトシは女の尻を大きく揺さぶって自ら絶頂に向かった。
「実は、もうイッてます」
一、二分くらいしてサトシが言うと、
「え…いつの間に」
女は拍子抜けしたみたいだった。AVによくある、同時にイクみたいなのがワザとらしくてサトシは好きではなかった。イッた後も多少は硬さを維持していて、感覚も麻痺しているから、それで女を楽しませるのが好きだった。
生理中の血塗れは久しぶりだったサトシは思わず、
「痛くない?」
と労ってみたが、
「大丈夫、別に痛くないから」
そういう女は、むしろ、その方が気持ちいいという様子だった。

「メールアドレス教えてください」
「…迷惑メール送るつもり?」
「大丈夫です」
女がかばんから取り出した携帯はキラキラにデコレートされて宝石箱のようだった。
「ネイルアートも勉強しに行ったんですけど、あのニオイがいやで…」
そのお礼メールはサトシが帰った直後に送られていた。
「湯冷えしないでね」

ロデオガール

三ノ輪に浄閑寺という吉原の娼妓たちを葬る投げ込み寺がある。サトシは女に会う前に、この寺を訪れていた。境内の裏手にひっそりと永井荷風の『震災』の碑と、無縁仏の娼妓を奉る『新吉原総霊塔』があった。そこへ真っ黒な蝶がひらひらと舞っていたのが脳裏に焼き浮いた。
女はサトシの軽い指攻めで二回と、椅子の上で茶臼の体位で彼の射精と同時にと、計3回逝っていた。クリトリスよりも膣に性感があるタイプで、陰毛はこじんまりと、やや長い毛で、毛深くもなく、陰唇周辺は無毛だった。外陰唇はこじんまりとキレイだった。サトシがそこへシャワーをあてると敏感に感じて、最初は手で必死に押さえていたが、サトシの指が払いのけて、やさしく愛撫すると、自然に身を任せた。膣内部は非常に狭く、サトシの指二本も最初はスムーズに入らなかった。ヒダヒダの粒は非常に粗く、数の子天上というよりはイボ天上というような大きな凹凸で、奥行きも狭く、人差し指で小壺に簡単に届いてしまうくらいだったから、最初手加減がわからず少し痛がったが、周辺の奥の方は非常に感じやすく、簡単に逝ってしまった。
女はいかにも渋谷あたりにいそうな感じだったが、アフリカ難民を彷彿とさせるほどガリガリな体つきで、顔は人によってはグラビア女優を彷彿とさせたようだが、サトシが唯一興味を持ったのは、女がアリゾナに十日間の旅行にいった話だった。
「わたしチャット好きで、それをみんなが見られるようにする計画をいま考えてて…」
その後、女の野望が叶ったかは知らぬが、この頃にはまだツイッターもフェイスブックもなかった。
サトシが下になって自由に愛撫をするよう女に命じると、最初戸惑っていた女はサトシの両乳首から腋、鼠けい部から陰嚢、陰茎へと舌を添わせた。ホントはアナルが最高に気持ちいいのだが、会って間もない女にそれを求めるのは酷だと思ったサトシは、せめて足の指を舐めるように促した。最初、女は動揺したが、恐る恐る小指から土踏まずにかけて舐めた。
「いれてみますか」
終始、受け身だった女にサトシが促すと、女はスムーズにゴムを付けた。狭い膣にも案外難なく入ったのは、女が正常に濡れていたためだ。
サトシには挿入したのかよくわからなかった。それほど女の膣は狭く、彼のサイズではかなり窮屈だった。すぐにサトシは身を起こして、茶臼の姿勢になり、ベッドサイドに移動して足を地面に下ろした。女と合体したまま、後方に傾かせたり、ぎゅっと抱き合ったり、とにかく性器を長時間密着させた。この方が重心が女寄りになって、尾てい骨を擦りむかなくていいとサトシは考えた。
女は自ら痒みを掻くように腰を振っては膣内や陰部全体に刺激を求めて官能していた。この積極さに触発されたサトシは、負けじと相手の腰を掴んで回したり前後に振った。女は眉間に皺を寄せ、目を閉じて、ややうつむき加減に、抑制することなく開放的に喘ぎながら官能していた。
「足が疲れた」
女がそう言ったので、サトシは挿入しながら女を抱きかかえて洗い椅子に移動した。この方が足が宙ぶらりんになって、体が触れ合う以外にどことも接触していないので、何の抵抗もなく女の体重を充分に活かしながら性器を密着させられた。体重はおそらく40kgくらいしかなく、足の長い女にとってもその方が楽だったようで、女も調子づいて腰をますます積極的に揺らしていた。その姿はまるでアリゾナの砂漠でテンガロンハットをかぶってロデオマシンに跨がっている女のようだった。
椅子に移って五分くらいで女が先に逝きそうになったので、サトシも最終攻撃に入ってみた。彼がやっとこさっとこ射精したときには、とっくに女は逝き果てていたが、それでもまだ充分に充血している陰茎でサトシが駄目押しに搗いたら、女の腰から背中にかけてじわーっと汗がにじんできた。

カバ女

プレゼントなんて何だっていいのだが、どうせなら見て選ぶのを楽しみたいだけだ、そんなサトシの目にかなったのは「一期一会」と書かれた和紙の便箋だった。
「渋い!」
とそのプレゼントに女は素直に喜んでいた。こういうのは会話の糸口になればよいもので、おかげで会話はスルスル流れていった。
「既婚ですか?」
サトシが聞くと、
「…してた」
女は答えた。女は27歳だといい、お世辞にもルックスがいいとは言えなかった。
「え、今日なんか雑誌とかみてきたの?」
「インターネットで見つけて。他の店も行ったことあるけど、あんまり馴染めなくて…なんかここ、コンビニみたいで来やすい。ネットのサイトも頻繁に更新されてるし…女の子の日記とかあるんですよね。あーいうのも何かすごく身近っていうか、字で個性って出るから。そういうのとか割と見てる」
女は嫌なことを思い出したように、
「今日も書いた…」
「あれっていうのは『私書きまーす』っていって書けば載っけてくれるの?」
「ちがーう、ちがーう…毎回、書かされるんだよー」
嫌々ながら書いている様子がありありと分かった。
「直筆で書くのって最近ないじゃないですか?こういう時代だから…」
とサトシはケータイでメールを打つ仕草を真似てみた。
「だから、あーやって自分の身の回りのことをペンとかで直筆で書くっていうのも、ない人はないと思うんですよ」
サトシは今日のプレゼントに便箋を選んだのは何かの縁だと思えてきた。
「だから、わっいいな!って思ったんですよ。顔とか性格とかよりも、字でね、その人のひととなりとか匂うから…」
「みんなどういう風に書いてる?」
「趣味のこととか…あと、字の形とかでその人の世代とかが見えたりする。なんで今の二十歳くらいの子って、みんなこんな字書くんだろうとか、この人は律儀な字だからゆっくり書いてるのかな?とか」
熱弁するサトシの話を女はじっと聞いていた。
「男の人って選んでいく方だから同じ事を繰り返してると飽きちゃうし、会ってないときに観念的に盛り上げてないと続いていかない。単にヤってるだけじゃダメで、そういった、くすぐったい感じがないと…」
「萎えちゃう?あははは」
サトシの熱弁はだんだん説教じみてきた。
「そこは自己表現が大事で…だから自分を見つめて、楽しいとか辛いってのを、ちょっと書くと男心はね、ぐちゅぐちゅって来るんじゃないですかね?ちょっと助けに行かなきゃ!みたいなね」
「ふはははは。うーん、そうだね…意外と当たり障りないこと書いてることが多いかも知れない…」
女は自分のやっつけ仕事を少し反省してる風だった。
「そういう人も多いけどね…ときどき個人攻撃したりしてる人もいますよ。『Tさん今日は笑い転げてお腹痛かったよ!』とか…そういうこと書くとねTさん、たぶんかなりね、グッときてるよ」
「なるほどねっ。勉強になっちゃうなー。みんな教えてくれるから」

時間に余裕があるせいか、二人は事に及ぶよりしゃべってばかりいた。
「え?まだ二十代でしょ?」
サトシは32歳だったが、あえて肯いてみた。
「前半?」
この女はどういう男たちと付き合ってきたのだろうか?
「それで、もう彼女つくんないって決めちゃったの?」
「いや別に…そういうわけじゃないけど、最近そういう気分で…」
「すっごい好きな子とかできちゃうかもしんないじゃん?やばい、こいつとずっといたいかもとか」
「そういう気持になったことないから、もうつくんないって言っちゃうのかもね」
「でも、そういう人の方が好きになったら、すごい深くなると思う。すぐさ、どこ見てもいいね、いいねって思ってる人はそんなに好きが深くない…」
そういう旦那に浮気されまくって別れたわけだ。
「周りの友達がみんな付き合ってるから、ボクらも付き合ってみようか?みたいな」
「そう、そう」
「本当に好きになったら、そんな感じじゃなくて、いじめあったりとか、喧嘩しあったり、それでも一緒にいる…みたいな。そういう気持ってなったことがないんで」
「そこまで深く関わらない?」
「そう、当たり障りない…気持ちいい、楽しいだけでいいみたいな…」

しばらく沈黙した後、女はサトシの勃起しかかった陰茎を物欲しそうに見つめて言った。
「おちんちん、こっちに曲がってる?」
「うん…何ででしょう?」
思春期に自慰をし過ぎたためだとサトシがいえば、また別の答えが返ってきたかもしれなかったが、彼が黙っていると、
「気持いいかも…だって絶対当たるところが違うもん」
と女は笑って、サトシのまだ勃起しきらない陰茎を愛撫し始めた。
「まだおっきくないから面白くないでしょ?」
どちらかというとSなサトシは女を制して、先に攻めることにした。離婚も出産も経験している女は肉付きは豊かで、感じやすく濡れやすかった。口いっぱいに頬張ることができるほどの乳房の感度も、陰核の感度もよく、せっかく持参したオモチャの出番はまったく必要なかった。まるで子供が泣いているかのようにひっきりなしの喘ぎ声を聞いていると、女陰を楽器のように「名器」と表現する理由がわかる気がした。
「ごめん、集中できない?」
互い違いの形で愛撫し合っても常に女の方がだらしなく崩れ落ちてしまう有様で、サトシの方が手加減しなければならなかった。

さて本番というときに女はタオルを抱く癖があった。
「タオル好きなの…やさしくしてね…」
それはお願いしますという意味合いらしかった。
坂口安吾だったか、娼婦は自分の快楽を犠牲にできなければ一流とは言えない、みたいなことを書いていたが、その点でこの女は三流以下であった。自分より楽しんでいる姿にむっとしたサトシは、
「でたよ」
と素早く事を終えると、乳房に接吻して横になった。
「よく濡れるから楽しかったです」
「あはっ、よくいわれる…」
呆れた表情で女は言い捨てた。

「そうか既婚の人あんまり来ないですか…」
「うーん、たまに来るけど…あんまりね」
「そんな奥さんとばっかりとやってて楽しいのかな」
「うーーん…楽しくはないんじゃ…」
遠い昔を思い出すように女はいった。
「お勤めみたいになっちゃうんだろうなって思うんだけど」
「そーーだよねぇ…だってさ女の人って、三十とか四十くらいがピークだっていうよね…何でだろ?熟してくるのかな」
「不倫する人妻がそのくらいが多いのって、女の人の性感って若いときよりも熟年の方がよくなっていくのに、亭主は逆に構ってくれなくなる…みたいな行き違いのせいだと思うんだけど」
「確かに十代の頃は別に気持ちいいなんて思わなかった。あ、これがセックス?って感じって言うか」
ピロートークは女性の本音を引き出す絶好の時間とサトシは考えていた。
「若いときはバンバンバンバン、ドカン!みたいな感じだけど、そうじゃなくて、じわっ、じわっ、じわーーっみたいな感じで、身も心も溶け合うみたいな。そういうふうになっていくらしいんですよ。そうなると誰とでも一緒になれるし、自由になれるんだって。だけど宗教とか道徳とか、世間的に後ろめたいって教えられてるわけだけど、本当は生物的にはだんだんとよくなっていくから世の中の常識は自然に反してると思うわけ」
「それ、勉強したの?」
「うん。勉強してるの。インド哲学とか、バラモン教とか」
「バラモン教?へぇーー…いま学生?」
「キリスト教は何でも禁欲!禁欲!っていうけど、中国とかインドの宗教は、それはいいことだ、うまく使えば精神鍛錬にはいいっていってて、だけど調節出来ない人が多いから禁欲!禁欲!ってなるんだと思うんですよ」
「ふぅーーん、すごーーい!そんなの勉強してるんだね」
「たぶんね、性感が気持ちよくなるってことは、すごくいいって事だし、当たり前のことだから、どんどんそれを追求していくと人生ハッピー!」
「人生ハッピーだね!?」

数日後、サイトに掲載された女の直筆日記。
「こんにちは。
今日も、外はカラッと暑いですね。
朝一で来てくれたお客さま
早起きして来てくれてうれしかったです。
例の韓国映画、見てみますねー!!
 では、またお待ちしてます!!」

うに女

女は40代半ばくらい。ここまで理想を裏切られるとサトシはかえって好感が持てた。
「男の人は本能だけでできるからいい」
といった女の真意は「こんなオバサンにビンビンになれるのは若い証拠」という意味だったとサトシは後で考えた。女のもとを訪れる客はほとんどが老人といい、上は八十、九十の爺さんが月に二、三回は来てるという。
「医者に健康のために女遊びしたほうがいいって言われたんですって。男女が裸になるってことは、肩書きとか背負ってるものをすべて脱ぎ捨てて、人間の本来の姿になることだから、介護とか福祉の仕事みたいなものね」
女と話をしているうちに、話題が盛り上がり、
「お客さんって知れば知るほど、もっと知りたくなる人ね」
と女がいったので、サトシはこの女と一年前にも当たってることをまさかこの女が覚えているのかと思った。
「セックスって奥が深いっていうか、未知な相手とすることで知らない快感を発見したりする」
そういってサトシがシックスナインの形で女のアナルや女陰を舐めると、
「え…グロいからそこは誰も舐めない」
と女は恥ずかしがっていたが、自分で剃った陰毛が数日たって蟻んこみたいになってることの方がサトシには抵抗があった。そんなこともおかまいなくサトシが激しく吸ったり舐めたりしていると、彼のを握っていた女の手が緩んで、体を支える力も抜けて、激しく喘ぎ始めた。

サトシがベッドに上がると女は下になった。彼が指や口で愛撫すると、女の女陰からどっと愛液が染みだし、全身からは潮の香りが漂っていた。昔、中川五郎が女を港にたとえた気持ちがわかる気がした。女がイキそうになって慌ててサトシの指を止めようとしたとき、サトシはその手を力で押さえ付けて、さらに激しいピストン運動をした。
「死ね!死ね!死ね!」
殺意にも似た快感がわいてきてサトシは心の中でそう叫んでいた。女は悲鳴にも似た喘ぎ声で、足がくの字に屈曲し、その後、全身を痙攣させていた。その姿は、サトシが前にみた関東大震災の火災で焼け死んだ屍体の写真を連想させた。死ぬ瞬間も案外、こういう心地よい感じなのかもしれないな、とサトシは考えていた。

ウマ女

グルグルル…
さっき飲んだアイスコーヒーが女の白いお腹の中で鈍い音をたてた。感情の読めない眼差しと肉感の希薄なほっそりとした肢体に緊張していたサトシはなぜかその人間的な音に安堵を憶えた。
「手があたたかい…」
サトシが言うと、それでも冷え性なのだと女は答えた。上品な花柄の下着をサバサバと脱いだ女は下着を買い集めているという。
「他人に見られるからではなく、自己満足です」
と控えめに答えた。
「私、思ったことすぐ何でも言うし、冷めてるってよくいわれる」
女は呆れたような表情で答えた。
「O型?」
「イヤABです」
どうりでクールなはずだとサトシは思った。
「お幾つなんですか?」
いかにも脱ぎやすい黒いタイトなワンピースを脱ぎながら女はサトシに聞いた。あえて三十路過ぎとは答えずに、
「…おじちゃんですよ」
とサトシが答えたら、
「私も実はおばちゃんです。あの写真のはちょっと前で…」
と微笑んだ。その写真には21歳と書かれていた。
「…この仕事し始めてからは、いませんから…」
サトシが彼氏はいるかと聞いたら、女は少しどもりながら答えた。
「でも、そのうちちゃんと結婚とかするんでしょ?」
「わたし、結婚できないと思う…子供なんて育てられない気がするし…」
こんなに稼ぎまくって、家庭も持ってなかったらずいぶんヒマだろうな、と思ったサトシはその潰し方を聞いてみたくなった。
「自由な時間を使って、何がしたい?」
「旅行とか……国内だったら、屋久島に行きたい!」
「あー、行ったよ。しかも鈍行電車で!三日もかかった!一週間休み取ったのに、一日しかいれなかった」
「えー、すごい。私も前に一ヶ月休んで、北海道に一人で車で行った。二日は車の中で寝て、あとはラブホとか…」
「え?ラブホって一人で泊まれるの?」
「泊まれますよー。お風呂とか普通のホテルより設備が整ってるし、案外いいですよ」

「あまりイヤらしいのできないんです」
サトシがやる気満々にベッドで愛撫しようすると、主導権を握られて萎縮したのか、女は自信なさげにいった。が、再び履いてもらったショーツは透け透けで、その編み目からは毛が透けてみえて、彼のイヤらしい情慾を刺激した。
女はクリトリス周辺やGスポットの指攻めに対して、ピクンと小刻みだが全身にわたる反応を示して、その振動は上体に身を寄せたサトシにも直に伝わってきた。軽くイク時には喘ぎと呼吸が一瞬止まって、ほそい体をくねらせて、目を閉じたままベッドに寝伏していた。
「ちょっと変わった体位にしていい?」
と確認してから、サトシは女が膝をついた格好で股下からオーラルした。
「は、恥ずかしい…」
暗がりとはいえ、モロに局部を見上げられる体位に、女は小さな声で呟いた。けれど、この姿勢はサトシにとって首と舌が疲れるわりに、それほど心地よくなかった。
サトシはベッドに上り、女を下にしてシックスナインに近い体位で、上から舌と指でクリトリス全体と乳首を攻めた。彼の指の長さは女の膣内の隅々まで届き、子宮近くのポルチオに触れた。されるがままいてくれれば彼としてはよかったのだが、女も彼の陰茎をつかんで激しく口で玩んでいた。
上の唇と下のそれは似るのだろうか?女は細い体の割に、唇が厚く、大小陰唇の肉感もサザエのように豊かだった。陰毛は意外と濃いが、ちゃんとプロの手で生え際が四角形に整えられていた。美乳だが決して豊かとは言えない乳房の中心には、硬く勃起した乳首が豆のように可愛く目立っていた。乳うんは濃くもなく薄くもなく、唇同様のやわらかい感触を持っていた。
横向きでの愛撫は体をねじらなければならず、疲れを感じたサトシは女を仰向けにして、愛撫した。女の顔が迫って、肉感の厚い唇が彼の唇を食べてしまう。ドアップで見上げたときの女の顔はみんな同じに見えるから目を閉じたくなる、とサトシは思った。

「そろそろいれてみますか」
サトシが提案すると、女はプログラムが切り替わったように、彼の局部を集中的に愛撫し始めた。彼の陰毛が口に入っても気にもせず、淡々と亀頭から陰茎、陰嚢、蟻の(とわた)門渡り、鼠頸部まで隅々まで丁寧に舐めた。
「脚…もっと広げて」
今度は主導権を奪い返したように女は指図して、サトシの股を強引に広げて、彼にとってもっとも恥部といえる肛門を念入りに、まるで汚れを拭うかのようにゆっくり、そして素早い舌の動きで愛撫した。
「…あらら、そんなとこまで…」
そのときサトシの暗黒の視界に七色に火花を散った。そして気づいたらコンドームがはめられていた。女は口でサトシの亀頭を愛撫しながら絶妙に衛生器具をつけていたが、彼の屹立した陰茎の根元までゴムを伸ばすのに苦労していた。
「もうそのくらいでいいから…」
女の反撃には負けてられぬとばかりに、サトシが挿入をせがむと、上になった女はサトシのモノを手で握って自分の膣に入れようとし、サトシも下からそれを助けた。女の膣内は彼のサイズには多少窮屈で、そのためピッタリ密着しすぎて、かえってうまく入っているのか不安なくらいだった。
サトシは最初、女の腰の動かし方に注文つけようとした。
「上下より横方向に、平行に…あ、やっぱり自分の気持ちいいように動かしていいよ」
女の腰に手をあてがって、もみもみ、おしおし、ぐるぐる、びちゃびちゃ…
「あっ、あっ」
濡れた音と女の吐息が漏れてくる。
おそらく体重四十kgくらいしかない女を挿入したまま軽々と抱き上げて、洗い椅子に彼が腰掛けると、女の両脚は宙ぶらりんに浮いた状態で、腰は自由自在に揺らせる状態になった。それがいいスポットを刺激するらしく女は何度も後ろに倒れるかと思うほど仰け反って自らの快楽に浸っていた。さっきのお礼とばかりにサトシが女のアナルに指を入れようとしたら、
「入れちゃ…ダメ…入り口触るくらいなら…」
と嗜められた。「ダメ」なんて言葉はこの際、何の意味もない振りをすればいいのだが、サトシは素直に諦めてみた。
その後、まだ深く挿入したまま、女を抱きかかえてベッドに再び運ぶと、今度は女を下にしてサトシが攻めた。女の足を閉じると陰核周辺が腿の肉で圧迫されて、ますます喘ぎは止まらない。
「後ろってどうかな」
二人の合体ポイントはピッタリと決して外れることなく、女の体が百八十度翻って、白い背中がサトシの目前に現れた。彼にとって、この体位は感じやすかったので、女が執拗に腰を上下させようとするのを再び、制した。
そのときにサトシはふと、女の両腕を「はいどー、はいどー」のように引っ張って、自分が騎士になって遊んでみようと閃いた。最初は女も何をするのかと戸惑っていた。顔で上半身を支えなくてはならず、さらに両腕を引っ張られながら奥を突かれるため、苦しいのか気持ちいいのか訳の分からぬ状態に陥り、喘ぎはまさに馬の雄叫びのように小刻みに荒くなって高まり、その絶頂の中でサトシも果てた。