非恋愛主義(5)



四十七歳の地図 猫の恩返し

四十七歳の地図

(これってインポ?)
四十歳を「不惑」などというが、淳悟は生まれて初めての不能にかなり戸惑っていた。
(徹夜明けで、半日歩き回って、しかも飲酒。そら立つもんも、立たんか…)
しかし、目の前にいるのは何十年連れ添った妻とか馴染みの女ではない。出会ってまだ一週間もたたない、しかも、淳悟の年齢の半分しか生きていない、若くて美しい女体だった。
「ごめん、なんでだろう?」
仕方なく彼は花に初めてのフェラチオをやってくれるよう頼んだ。食欲旺盛な若い彼女は口にすっぽり含んだまま、しゃぶり続けるというスタイルで、何とか挿入可能ぎりぎりの硬さにしてくれた。淳悟は挿入して、ここぞとピストンしてみたが、彼にとっては後味のよくないフィニッシュとなった。
チェックアウトのコールがあって、
「どうしようか、出る?」
と淳悟が聞くと、花はまだくつろいでいたい様子だった。
「延長分は、わたしが払います」
彼女のいうまま一時間延長した。花は自ら淳悟にくっついて、彼の肩や耳を軽く噛んだり、腕をつまんだりしていた。
(この子はこういうのが本当は好きなんだろうな…)

時間がきて淳悟が帰り支度のため部屋の灯りをつけると、花はなかなか動こうとしない。部屋を出る際、ちらっと彼女がいた場所を見ると、シーツの上に真っ赤なシミが広がっていた。
(ありゃ、洗濯でも落ちるのかねぇ…)
電車の中で淳悟がふとスマホを見ていると、自分の指の爪やら指の間にうっすら血が染み付いていた。
(ああ、そういうことだったのか…悪いことしちゃったかな)

数日後、淳悟が花にLINEで、
「明後日、やけ酒しませんか?」
と誘うと、
「自棄を起こしてばっかりだと体壊しますよ〜笑 祝い酒しましょ(°ω°)」
とすこぶる好意的だった。

その日がきた。
駅近くの居酒屋で空腹を満たした後、淳悟が予約してあったホテルにチェックインすると、花はさっそくシャワーを浴びて、コンビニで買ったアイスを食べていた。淳悟はホテルの薄っぺらなガウンに着替えて、先にベッドインしていた。
「今日は生理だから…」
(ああ、やっぱりこないだの血も…)
それを聞いて淳悟は、
(今日はソフレに徹するか…)
と心に決めてみた。
「わたし舌が短いんです…」
それはたしかに絡ませるには短く、団子のような肉厚だった。その舌で花は淳悟の耳たぶの感触を味わって、
「これまででナンバーワン!」
と激賞していた。
(そんなとこ褒められたの初めてだな…)
お礼代わりに淳悟も、花の首筋に舌をそわすと、そこが一番弱いらしく、彼女は声をだして身悶えていた。
「明日、仕事なのに…」
淳悟があまり夢中になって首筋を愛撫したせいで、赤い痣が三ヶ所もできてしまっていた。
ほとんどは淳悟が攻めるかたちだったが、ときどき花も淳悟に身を寄せてきては脚を絡めたり、好物の耳たぶを頬張っていた。そうなると淳悟も自然と手が彼女のパンティに向かい、血で汚れることもいとわず、生理中のぬるぬるの中に指を泳がせた。
「生理中の方が気持ちいいって人もいたよ」
それを聞いて花は喘ぎながら、
「きもち、いい」
と真似してみた。

淳悟が決意に反して挿入の体勢に移ろうとすると、先日と同様、またもや、息子撃沈。
すると花も申し訳なさそうに、
「わたしですね…」
と謝ってきたので淳悟も、
「いやいや、年齢のせいですので、こちらこそすみません」
と謝るといったありさま。
鼠蹊やら陰嚢まわりまで花に愛撫してもらっても、愚息は目を覚ます気配もない。
(なんだよ、血におびえたのか?立て続けにこれじゃ、自信なくすなぁ…)
立たないくせに出るものはちゃんと出るから質が悪い。花の口の中で射精したとき、彼女は苦しそうに咽せ込んで、あわてて浴室に駆け込んでいた。淳悟はこれまでに口内射精して、そんな姿を見たことがなかった。
(おかしいな、年取ると精液まで水分が枯れるのかな…)

それから四日後。淳悟は初めて花のアパートを訪れた。
その床に布団を敷いてゴロゴロしながら、花が大好きだという近親相姦の映画を鑑賞した。
ビデオ鑑賞後、冷えた花の体を淳悟が暖めているうちに、珍しく淳悟の息子が起きてきて、
「あらあら、着替えないと風邪引きますよ〜」
とふざけながら照れ隠しに淳悟は花のセーターを脱がせにかかった。すると、彼女もウケながら自ら脱いだ。黒いレースのタンクトップも脱がせると、淡いグリーンのブラと真っ白い肌が姿を現わした。淳悟は花のブラを上にずらして、乳首を口に含んだり、乳房全体を手で揉んだ。そのうちブラが邪魔になって、後ろのホックを外した。
「あらら、お漏らししちゃって〜」
淳悟がふざけながらズボンも脱がせると、花の白く肉付きのいい脚とブラと同じ色のパンティがあらわになった。
「せっかく、きれいなパンティなのに…」
悔しがる花をもっと困らせたくなって、淳悟はそのパンティを脱がせることなく、隙間から挿入した。下になった花は両脚を淳悟の腰でクロスさせ、抱っこちゃん人形のようなポーズで官能した。上になった淳悟は彼女の肩や頭を押えつけてピストン運動の衝撃を陰部に集中させた。
最近元気のなかった淳悟の息子が珍しく絶好調、かつ適度に鈍感なので、花の喘ぎ声が長いこと、長いこと、近所に漏れていた。
やっと射精した後、
「まだここからがスタートです、せっかく入ってるのに抜いたらもったいない」
と淳悟がそのまま腰の運動を続けると、
「元気ですね」
と花が言った。

「生理は終わった?」
「終わりました」
花はそう言って淳悟の体にまとわりついて、無精髭の頬を指で撫でながら、その感触を楽しんでいた。
「どうぞ、オモチャにしてください」
淳悟がいうと、
「もうしてる」
いつの間にかけたのか、さっきの映画の娘役とそっくりのメガネをかけたその奥で、花の悪戯な瞳が妖しく微笑んだ。

三日後の夕方、花から預かった鍵を手に淳悟は先にアパートに帰っていた。途中で買った食材で作っておいたクリームシチューを二人で食べて、お腹いっぱいになったところで、くつろぎタイム。一人用の布団に二人して寝そべるから必然的にくっつかないわけにいかない。そうしていると、淳悟は自然とムラムラして、花の背中に手を回して、口づけして、首筋から耳を愛撫。ブラの中に手を入れて、乳房を揉んでいると彼女もうっとりし始めた。いい頃合いに淳悟が花のパンティの谷間に手を持っていくと思った通り、湿っぽい。中に指を忍ばすとすっかりヌレヌレ。

途中、夜中にコンビニに買い出しに行った以外は、ずっと、しゃべったり、やったり、べたべたしたり、まったく眠ることを知らない。
午前十時頃にやっと布団から起きだして、遅い朝食をとって、昼頃、近くの公園まで散歩に出かけた。
散歩から帰ってシャワーを浴びた後、花が仕事に出かける夕方まで何もすることがないので、またまたくつろぎタイム。
「隣、一日中やってるよってきっと思ってる」
花は近所に響く自分の声を一瞬気にしたが、その後も派手に喘いでいた。
淳悟は彼女の膣の中に指一本を差し込んで、狭い内部の凸凹の壁を撫で回し、指を出し入れしては、ヌルヌルの下のかすかな膨らみを撫でる。その声に応じて、その部位を集中攻撃。強く、弱く、早く、ゆっくり。
「気持ちいい?」
と淳悟が聞くと、
「きもちいい…ううう」
と何ともいえない表情の花だったが、逝く寸前で、
「もういい」
と淳悟の手を止めた。
(結局、逝かないんだな…)
「自分でやったりはしないの?」
淳悟がそう聞くと、
「ピルのんでるとそういう感じにならないの。生理もないし」
「へー、そうなんだ」
「生理のとき出血はひどいし、腰は痛くなるから、いやなの」
経口避妊薬に生理痛や出血を緩和する効果があるとは淳悟も知らなかった。
「でも、逝かないのは残念だね。こんな、ずっと愛撫してるんでいいの?」
淳悟が聞くと、花は微妙そうな表情で、
「いろんなクスリを試して自分に合うのを探してる」
と言った。
「クスリ代ってけっこうかかるの?」
「いいえ。月に千円くらい。病院で処方されたやつだったらもっと高いけど…」
(それでも、ちゃんとお金かけてるんだな…)
と感心した淳悟は、考えてみればここ十年、コンドームを自分で買ったことがない。
「じゃあ、オレもオカモトゼロワンとかすごい薄いやつ買おうかな。でも、自分のサイズって何なのかよくわからない」
花はフェラチオしながら迷わず、
「Lじゃない?太さも長さも大きい」
と言った。淳悟は同じ台詞を過去に言われた記憶が何回もあった。
「体が植物みたいだから、よけいにそこだけ目立つらしいよ」
と淳悟が言うと花は納得しながら、
「それに、いい匂いがする」
と言った。
(きっとパンツの柔軟剤の匂いが毛にも付いてるんだろうな)
と淳悟は想像した。花は淳悟のペニスを弄びながら、
「全体が曲がってて、先っぽの割れ目の真ん中に筋があって面白い食感」
と言ったり、肛門と陰嚢の間を触りながら、
「ここが膨らんでて硬い」
とあらゆる特徴を表現していた。
淳悟も花の性器を的確に表現しようとした。ホテルの暗い部屋と違って、真っ昼間のアパートにはカーテン越しに日光が入ってきて、彼女の肢体を鮮やかに映し出していた。すでに何度も見ているはずの花の女陰は眉毛と同様、うっすらとしか毛がなく、恥丘が盛り上がって、割れ目がくっきり入っていた。
「十七歳の恥部って感じだね」
笑いながら淳悟が敬愛する尾崎豊のアルバムタイトルに引っかけていうと、
「十七歳の子とやったことあるの?」
と花はまじめにツッコミを入れた。
(そんな画像いくらでもネットに転がってる…)
と淳悟は言えず、
「そういうイメージってこと」
と茶を濁した。

猫の恩返し

その白黒の猫は八年前の冬に健太の家のベランダに住みつき、翌年の春、どこかへ旅立っていった。彼の家に迷い込んだときはまだ小さくて痩せこけた子猫で、あのまま外で暮らしていたら冬を越せなかったかもしれない。
最初、猫は健太がベランダに置いたダンボールの家を住まいにしていたが、雪が降ったりして寒さが一段と厳しくなると、健太はベランダの下に毛布を敷いてやり、猫はそこを寝床にしていた。
天気のいい日には暖かくなったベランダに寝そべって、手足をぺろぺろなめたり、庭のキンモクセイの下で日光浴していた。
健太が「しろちゃん」と呼ぶと、猫はベランダの下からゆっくり出てきて、ぴょんと上に乗ると、手足をそろえてきちんと正座した。その器量の良さと行儀の良さを気に入った健太が、やたらペットフードを貢いだおかげで、四ヶ月後にはまるまると大きく成長していた。自分では食べきれないほどだったらしく、ときどき仲間の三毛猫を連れてくることもあったが、その三毛猫は行儀がわるく、「しろちゃん」の分まで食べようとしたので、健太が皿を引こうとしたら、鋭い爪で健太の手を引っ掻こうとした。
猫とだいぶ馴れてきたある日、健太は彼女を家の中に招き入れようと、いつも外で与えていたフードを家の中に置いた。すると猫は恐る恐る、入ってきて食べ始めた。油断してる隙に健太がガラス戸をそーっと閉めると、慌てた猫はガラス戸にバタン!バタン!と体当たりした。ダメだと観念すると、ターッ!と家の中を駆け回って玄関まで辿り着くと、そこも閉まっていたので下駄箱の上の花瓶は割るは、額の絵は壊すはの大騒ぎとなった。
(やっぱり野良猫は家の中では飼えないんだな…)
健太は観念して、二度と彼女を家に入れようとはしなかった。


その「しろちゃん」らしき猫がなんと、七年ぶりに健太の家に姿を現わしたのは、二月七日のことで、そのとき彼は留守だったが、母親がそれを見つけた。
「あの猫、今日来て、あの木の下で日向ぼっこしてたわよ」
飼い猫とちがって、野良猫にとって七、八年という歳月は生涯に値する。
(もしや、お別れをいいに来たんじゃ…)
猫は死ぬ前に姿を消す、というが、その逆もあり得るのではないか、と健太はそのとき思った。

その二日後の二月九日、健太にとって思いがけないことがあった。思えば、それがユキとの出会いだった。
「お父さんが学生時代の友人と詐欺まがいの仕事をやって、相手から数千万の慰謝料を求められて、自殺しちゃったんです…家で首釣って。あちゃー、やっちまったかーって」
そのとき父親はまだ四十五歳だったという。
「え、それ幾つの時?」
「十九です。で、裁判みたいになって、弁護士が相手と交渉して、家と土地をすべて売って、それでってことになったんです」
父の死を契機にユキは家を出て、母と弟とはほとんど連絡をとってないという。

健太とユキが肉体関係をもつようになったのは、それから一ヶ月後のことで、そんなある日、一緒に同じアニメを見ながらLINEしていた。
「超意外にも関係にラベリングしたいタイプなんですね」
「ユキさん的にもそーなんすか?」
アニメの話題に混ぜて、健太はユキの心を読みたいと思っていた。
「わたしは何もかもぼんやりです(^o^)」
「何もかもラベリングしないほうがいいよね」
「ラベリングしておくのはひとりまでで充分(ヽ´ω`)」
「1号2号3号てラベリングしてみたらどう(笑)」
「そんな失礼な事、できません(~o~)」
「ボクは2号でも3号でもいいよー」
ユキには付き合って二年になる彼氏がいた。

「明日っておじゃましていいんでしたっけ?」
「そういう予定でしたね 夕方までにはうちに着きますから〜(^o^)」
「もしや彼氏?(;_;)」
「そこは掘り下げなくてもいいのでは(・θ・)?」
「妬いてみたいのさ(笑)」
健太はそういってみたものの、冷静ではいられず、思い切って、
「二股生活も大変ですね」
と喧嘩を売るようなことを言ってしまった。すると売り文句に買い文句でユキも、
「間男生活も大変でしょうね(-.-)」
健太が泣いてるウサギのスタンプを送ると、
「なんですか、いじけてるんですか 私も間女ですよ〜 だからいじけないでください〜」
とユキも同情してきた。
「なんで間女?千葉まではるばる通う本命がいて羨ましいよー!」
「健太さんに本命ができるまでの間女ですよ(^o^) 千葉はまあまあ通えます 笑」

ユキが彼氏の家から自宅に帰ってくると、すぐに健太もやってきた。二人は各自持ち寄った食べ物で空腹を満たした後、健太が用意したタブレットで漫画を読んだ。その頃にはユキは疲れて眠たかったが、健太がベタベタしてきて、服を脱がせてきたので、ユキはされるがままに身をまかせた。
(しょうがねぇな、またヤる気だよ。昨日はちょっと気まずかったから、ま、いっか…)

その後、二人は一時間くらい一緒に風呂に入った。いつも五分で出てしまう健太は風呂から上がった後、体も拭かないで布団に倒れ込んでしまった。
そこまでは健太も幸せいっぱいだったのだが、状況が一変したのは、夜中の二時頃で、それまで何度かかかってきていた電話にユキがやっと出る決心をした時だった。ユキは健太の耳にイヤホンを突っ込んで、スマホを持ったままトイレにこもった。十分たっても三十分たっても出てくる気配がないので、健太はイヤホンを外して耳をそばだてたが、ドアの向こうで囁く声ははっきり聞こえない。
「寒いから風邪ひくよ…」
とノックして、ひざかけを渡したら、
シーッ!とユキに怒られた。
ついに一時間たっても出てこないので、喉も乾くだろうとペットボトルのお茶を渡そうと、またノックすると、ユキはあわてて戸を閉めて、さっきより恐い顔で、
「今、彼氏と電話してるから!」
と健太を叱りつけた。仕方なく健太はドアの扉の前で膝を抱えて待った。換気扇を止めて、浴室の窓も閉めて、なるべく中の声が聞こえるようにして、耳をそばだてた。
「うん、うん、うううん、いきたくない…」
猫が唸ってるみたいな声が延々と聞こえる。
(こりゃ付き合いきれんわ)
健太は布団にもぐってユキを待つことにした。
三十分ほどしてやっとユキがトイレから出てきた。健太が話を聞いてるうちに、ユキはしくしく泣きはじめ、鼻汁もとまらない。
話とはこういうことだった。千葉の彼氏は実家の九州に戻って、そこでユキと一緒に暮らしたい、けれどもユキは友達もたくさんいるし、仕事もあるし、東京を離れたくない。
健太は仕方なく、朝まですすり泣くユキの背中をさすったり、頭をなでたり、とにかく慰めていた。
ほぼ一睡もせず、アラームが八時に鳴った。
健太はまたユキにベタベタしはじめた。彼は昨夜のわだかまりを解きほぐそうと、いつになく熱を込めた。
「なんで、気持ちいいんだろ…」
ユキは冷めた口調でつぶやいた。
「愛してるからだよ」
健太が応えると、
(人がこんな最悪なときによくそんなセリフ吐けんな…ほんと、空気読めねーやつ)
ユキはそう思いつつも、健太のペニスを口にくわえさせられ、中で射精されても、されるがままだった。それはラベリングしたひとのこと以外はどうでもよかったからだった。

その日の夜も、二人はまたユキの部屋にいた。
「お開きにしましょ」
ユキは明日の仕事が早いことと、彼氏から電話が来ることを理由に、二十一時頃に健太を追い出そうとしたが、健太はちっとも帰ろうとしないので困った。
「わたし殺される」
「なんで?」
「だって恐いんだもん…彼氏は特別なの。健太さんは間男にもなれないし、猫にもなれないから、こんなこと続けてたら、そのうち哀しくて死んじゃうと思う」
「彼氏になれないかな?」
「無理ですね。ザ・彼氏って感じじゃないと」
「何それ?」
「毎日電話してきたり」
「オレじゃダメ?」
「わたしより先に死んじゃうし、保険にするんだったら同世代にする」
「オレが年寄りだからダメなんだ?」
「いいえ、たとえもっと若かったとしても健太さんを彼氏にはしないです」
ムカついた健太はユキを床に押し倒してキスした。
「いたい!」
「いいよ、セフレで、気持ちいいことだけしていよう。だけど昨日のユキさんはつまんなかったよ」
(メソメソしてさ、一時間半も何電話してんだよ、しみったれ…)
「じゃあ、帰ります」
健太はそう言い放って、ユキの顔も見ずに出てきた。

翌日、健太は仕事先で親しい人に言われた。
「最近、お痩せになりましたね。どこか体でも悪いんですか?」
「いいえ、別に病気という病気は…あ、恋の病なら」
そういって健太が冗談で返すと、
「ぼくもそんなこと言ってみたいなぁ」
彼も笑って言った。
(そんなにやつれて見えるのか…)
健太が家に帰って体重を測ると、今まで見たことのない54という数字だった。
(三日にいっぺんヤッてるんだから、そら身が持たないわ。もうやめよう。次のデートはキャンセルだ…)

翌朝、冷静になった健太はユキに詫びのLINEを送った。
「昨夜は遅くまでお邪魔してすみませんでした。ただの友達がどんどん図々しくなってあなたに迷惑かけているなら申し訳ないです。猫も間男も失格だよね」
「昨日はがんがん言って失礼しました(°_°)私は健太さんにネコにも間男にもなってほしくありません。健太さんがどうしたいのかも私には正直よく分かりません(〜o〜)」
「ガンガン言ってくれて嬉しくもあります。彼氏さんが焦るくらいユキさんが綺麗になるのがわたしの夢だったりします!そのためなら肩書きは何でもいいよー!」
「綺麗になれるよう努力していきたいと思います 嘘っぱちのおままごとも私は好きですよ、五歳らしいので」
「嘘っぱちのおままごと、また、しに行ってもいいですね!?わたしも五歳になるのが大好きですから!」
「もうお泊まりは厳しいかな〜と思いますけど、今度おうち焼肉でもしましょう」
次のデートの約束もまだ生きてるのか健太は聞いてみた。
「行けますよー(^o^)」
「気を取り直して楽しみましょ!(^-^)/」
「楽しみです(・∀・)お仕事頑張って下さい!」
それだけで健太のモヤモヤは晴れて、二人の「嘘っぱちのおままごと」がズルズルと続いてしまうのであった。

「わかめ酒って知ってる?」
性に対してはオーソドックスなユキには初耳だった。健太はユキを正座させ、後ろにのけぞる格好にして、股間の谷間に日本酒や梅酒を注いだ。彼が思った通りユキの豊かな下半身の肉付きでは、液体が布団にこぼれることはなかった。冷たさとアルコールの刺激でユキはきゃっきゃと声をあげていた。健太はそのわかめ酒を四、五回すすり飲んだ後、生理中のユキにクンニしようとした。ユキは必死に抵抗したが、健太は力づくでユキの両脚を開き、その股間の割れ目を指で肉をかき分けるように開いて、嫌がるユキを力で押さえつけて、一番恥ずかしいところを猫が手足を舐めるようにきれいに舌で舐めた。クンニの後、健太がユキの生理中の膣に指を入れて激しく出し入れすると、どばっと分泌液が吹き出た。
「あれ?ユキさんって潮吹くんだね…みて、ここかなり濡れちゃった」
せっかくわかめ酒をこぼさなかったのに布団をぐっしょり濡らしてしまった。
終電の時間が迫っているのに帰ろうとしない健太にユキはやきもきしていた。というのも、彼氏が異動願いを出して、近々ユキと都内で同棲を始める手はずを整えていて、その電話を待ちわびていたからだ。
「同棲でも、結婚でもどうぞなさってください。でもそんなのだっておままごとじゃん」
「いいんです。結婚してみたいんだから」
「きっとすぐ飽きちゃうよ」
耳元で皮肉ばかりいってる健太にユキは腹が立ってきた。
「どうしたいんですか?」
いっこうに帰ろうとしない健太にユキはそろそろ業を煮やしてきた。
「別にどうもしたくないよ」
「健太さんには何の見返りもないじゃないですか」
健太は意外な言葉だと感じた。
(見返り?別にそんなもの求めてない。無償の行為ってやつだ)
「電話すればいいじゃん。黙ってるよ」
「わたしがしたくないんです」
「なんで?」
「人に聞かれたくないんです」
(そりゃそうだ、猫同士のおしゃべりだもんな)

夜中の三時半、健太はついに帰る決心をした。
「じゃあ、邪魔しましたね」
健太はテーブルの上にさっきユキからもらったディズニーランドの土産をぞんざいに置いて来た。
「これお返しします」
パジャマ姿で玄関まで送ったユキを振り返ることなく、健太はさっさと歩き出した。自宅まで十六キロはある道のりを彼は三時間以上かけて徒歩で帰った。歩いて、歩いて、ヘトヘトになって、何もかも忘れて…死んでしまってもよかった。

二日後。健太は詫びのLINEをユキに送った。
「おとといは仕事早いのに遅くまでお邪魔してすいませんでした。罰として三時間以上歩いたおかげで今日の仕事は筋肉痛でしんどかったです」
「私は夜中に追い出した罰として眠たい仕事でした お土産はいらないんですか〜」
この返信に健太は涙が出る思いだった。そしてお土産を手渡すために二人はいつものコンビニで待ち合わせして、いつもの公園を散策して、駅前のカフェでランチした後、近くのディスカウントショップで買い物して、そこから十五分ほど歩いたところにある小さな稲荷神社でキスした。ユキはためらうことなく健太のキスを待ち受けて、それを味わった。
「あれ?ここだっけ…」
ユキに導かれて健太は見知らぬ街を歩いていると、彼女のアパートへ向かう曲がり角に着いていた。
「ちょっと寄って行きますか?」
健太はユキの誘いに異論もなく同意した。ユキは仕事に出かけるまでの一時間だけなら、と考えていた。
健太はユキの若干の抵抗をはねのけてジーンズのガウチョを脱がせ、パンティも脱がせ、自分も脱いで、互いに靴下だけになり、ユキを上にして、健太は下から差し込んだ。
「何かバイク乗ってるときみたいじゃない?」
健太はユキの手を自分の肩に添えさせて、
「ほらね、ぶぅおおおん!みたいでしょ。バイク好きな女の人ってきっとみんなこういうエッチが好きだと思うんだけど」
ユキもちょっと笑った。

三日後。
一緒に参加した飲み会が終わった後、珍しくユキから健太にLINEが来ていた。
「健太さん!べろんべろんです!無事ですか?」
いつになく常軌を逸しているユキに健太はなるべく冷静に対処した。
「何そんなに酔っ払ってんの?全然平気だよ」
「頭ぐるんぐるんします〜 ただの酔っ払いです!」
健太は少し心配してみることにした。
「ちゃんと家帰れてるのかー?」
「家に着いたは着きましたよー わたし変なこと言ってませんでしたか」
(変なことは言ってないけど、やたら男にベタベタして向かいの子が引いてたっけ…)
健太に下心が湧いてきた。
「今からお宅に行っちゃおうかなー」
つい数日前、夜中の三時に追い出されたばかりだというのに懲りない男であるが、同棲の準備を始めていたユキはもう吹っ切れていた。
「来ますかー お片付けしてくださいます〜」
健太はすでに最寄り駅まで帰っていたが、ユキの自宅のある駅まで行くことにした。
「泊まっても怒らんでくださいねー!」
「もう顔洗っちゃったからすっぴんでよいならばー、じゃーえきに着く時間おしえんしゃい」
十一時半頃、健太はユキと駅前通りでランデブー。彼が勢いよく抱きついたら彼女は痛そうに顎を押えていた。
健太がお休み前に一発かまそうとしたところ、酒の飲み過ぎで彼のものが使い物にならず、ダーティフィンガー大暴れ。ユキも大好物の耳をべちゃべちゃと旺盛な性欲で賞味した。
そのまま朝まで二人ともぐっすり眠ってしまった。
翌朝、生まれたての陽射しのもとで見るユキの肢体に見とれながら、健太はその股間に首を突っ込んで愛撫したら、かすかに血の匂いと塩っぱい汗の味がした。
(これぞ、豊潤に分泌したバルトリン腺の味わいだ。そういや、昨日は風呂に入らないで寝ちゃったんだっけ…)
最後に健太が馬になり、ユキが騎士になって、にゅるっと接続すると、ユキは息苦しそうに苦悶した。
(やっとありつけましたな、あれだけ欲しかったチンコをやっと食べることができたんですね。その余韻も味わわせてあげましょう)
健太が逝った後もしばらく挿入したままでいると、ユキは膣の括約筋で小刻みに開閉運動を繰り返していた。それは柔らかくなってきた健太をもぐもぐと口の中で咀嚼しているようだった。
「そこで林檎の皮むいちゃう人もいるんだよ」
健太は学生の頃に伊香保温泉でみたストリップショーを思い出していた。

五日後。
ユキと健全デートを二回したせいで健太の下半身は不満気味だった。
「じゃあ、仕事の後、少しだけおままごとしてもいいですか?」
健太があの手この手でユキの部屋に行こうとしても、彼女はことごとく交わした。
「そのおままごととは?おやつ食べに行きます?」
「だったらおやつ買って伺います!!」
健太もしつこく粘っていると、面倒くさくなったユキが言った。
「帰りたくなくなるでしょ じゃあ割り勘でホテル行きましょ」
「それもありですが、用が済めばさっさと帰ります。信用されてないのも致し方のない前科持ちですが」
引っ越しを控えたユキとしては、何としても健太を部屋にあがらせるわけにはいかなかった。
「家散らかってるから無理です」
仕事帰りの健太はデリヘル気分でユキを駅前まで呼び出し、駅前に一件だけあるラブホに彼女を連れ込んだ。

健太は汗まみれの体をさっと流してからパンツいっちょでユキが先に寝そべっているベッドに入った。ユキが着ていたピンクのVセーター、その下の長袖のTシャツ、その下の黒いレースのキャミ、そしてベージュ系のブラ、ボトムはデニムのガウチョパンツを全て脱がして健太は愛撫を開始した。ユキの足の先、手の親指、脛から太腿まで舐め回した。健太がユキの腕を万歳させて、腋を舐めようとすると、腋毛がうっすら生えてるのが目にとまった。
(ちょびちょびした腋毛ってかえってエロティックだな。舐めたらチクチクして髭のような感触なんだろうな…)
そう思いつつ健太は見るだけにした。それまでカバンの通販サイトに涎を垂らしていたユキも、健太の指が股に入ってくると下半身の涎が垂れてきた。
健太はベッドから降りて、ユキを前に立たせた。彼女の背後から左手で乳房を揉みながら、右手で膣の中に指を入れると、もうユキはまともに立っていられない。まるで軟体動物みたいにぐにゃぐにゃになってしまい、その倒れそうなユキの身体を健太は左手一本で何とか支えながら右手だけは動きを止めない。
(今日はまだ酒も入ってないのに、ここってそんなに弱いんだ…)
順調に昇りつめていくユキとは裏腹に健太のものはすぐに萎えてしまい、珍しくゴムをつけてみてもプカプカになって、
「先っぽに空気が入ってるー」
とユキに指摘されるありさま。
「顔ばかり見てても立たないんだよ…いつも見てないものを見ないと!」
そういわれてユキは少し寂しげな顔をした。健太が彼女の両脚を全開に広げようとすると、最初、ユキは抵抗を試みたが、途中から諦めてされるがままになった。その濡れたユキの女陰を明るい所でまじまじとみるとパイパンかと思っていた陰唇にもしっかりと毛が生えていることがわかった。健太がそこを愛撫すると口の中に毛が入ってきて、虫をしゃぶってるような不思議な食感を与えた。厚めの大陰唇を押し広げると、サザエのような小陰唇のヒダと膣が顔をのぞかせた。そうこうしてるうちに健太の息子は挿入可能な勃起状態になり、すかさず正常位でユキに差し込むとばっちり滑り込んだ。ユキの肩と頭を腕で押えながら、健太は腰を細かく動かすとユキも愉悦と苦悶の入り交じった表情で喘いだ。
一時間半で事を終えた二人はラブホを出て、近くの割烹料理屋に入った。健太にとってこの店は馴染みだったが、初めてきたユキはお通しですでに感激していた。焼酎と日本酒でやめておけばよかったのに、ボルドーワインのボトルを二人で空けてしまったおかげで、店を出る頃には二人とも泥酔状態。
「酔ってもちゃんと帰れます。帰巣本能には自信があるんです」
ユキはそう強がったが、健太はそこから徒歩でユキの部屋まで送り届けることにした。ふつうに歩けば三十分ほどの道のりをその三倍近くかけてしまったのは、途中でコンビニと神社に立ち寄ったせいだ。
「ほんと酒に弱くなったわ」
健太の肩を借りて歩きながらユキは飲み過ぎたことを反省した。
「辛いことあるの?」
と健太が聞いてみると、ユキは頷きながら、
「わたしメンヘラですから。二十歳くらいの頃はもっとひどかった…」
(メンヘラっていうか、典型的なツンデレだよな、こりゃ。きっと彼氏の前でもいつもこんな風なんだろうな…オレの前では酔わないとデレデレしないくせに…)
健太はせっかく猫にマタタビ状態になったユキをずっとかまっていたかったから、さっきホテルでさんざんエッチしたのに、コンビニでもいちゃいちゃ、ちゅっちゅ、神社でも、
「ぐるんぐるん目が…」
といって参道のベンチで休んでいたユキの右側に健太は座って、彼女のダボっとしたガウチョパンツの裾から手を忍ばせて、パンティの縁からユキの愛液でしっとりした膣を愛撫した。次に健太は彼女の前に立って自分のズボンの前を開けると、ユキの前に大きくなったペニスをさらした。すると、ユキもそれを手で支えながら、唾液でしっとりした口にくわえて、前後に出し入れした。まるで、そうしてると目がぐるんぐるんするのを少し忘れられるかのように。しばらく二人がそうしていると、神社の入口の方から、
「きゃっ!」
と急に女性の声がして、走り去って行く音がした。
「あ、誰かに見られたね」
そこからまた二人はヨタヨタと歩き出して、二十分ほどでユキの部屋に無事到着した。
「ごめんなさい…」
そう言って、階段のところまで送ってこようとしたユキを制して、扉のところで健太は別れを告げた。

二週間後。
いつの間にかお互いに違和感が生まれていて、それが何のせいなのか、健太にはわからず、それをユキに問いつめていると、
「ふふん。終了ですか!?」
ユキは清々しい顔で言った。
「……そんな嬉しい顔しないで下さいね」
健太が言うと、ユキは今度は冷めた顔で、
「もっと言いたいことはないんですか?」
「これから、もしダブルな生活になっちゃったらヤバくない?」
「わたし別にダブルなつもりないですよ」
「それって彼氏にバレなきゃいいってことですか?」
「バレてると思います」
「だったらダメじゃん」
「ははは、いいですよ、ダブルで」
ユキは笑いながら一応は認めた。
「誰かとコイツめっちゃ飲みに行ってんなくらいは…知ってます」
(彼氏なら、ふつうその先も想定するだろ。だからわざわざ異動までして…)
と思いつつ、健太は言った。
「だからどうしよっか。どうしたらいい?」
と迫った健太にユキはついに決断を下した。
「嫌ならやめなさい」
「わたしはイヤじゃないけど…」
「イヤっていう部分があるんでしょ?この人は結局、カレシカレシって!」
「そうだよ」
「じゃあ、やめなさい」
ユキの語気がいっそう強くなった。

そんな痴話げんかをした三週間後。健太はユキとはもう私的に会うことをやめていた。
ユキもアパートを引き払う支度をほぼ済ませていた。彼氏との念願の同棲生活がいよいよ始まろうとしていた。
二人が参加した飲み会の後、酔っ払った健太が何となくユキにLINEしたら、
「もうおうちですか〜残念」
ユキも酔っ払っていて、だんだんいつかの流れになってきた。
(実は会いたいのか?しかし、もう終電近くだぜ?)
そう思った健太はちょっとふざけて、
「行けなくもない。帰れないけどねー」
と送ってみると、目を疑うような文字が踊っていた。
「これからそちらに行きましょうか?」
「こいこい!」
「えー本当に行ったらお散歩付き合ってくれます?」
「いいよー」
「やったー じゃあおうちでゆったりお風呂でも入っててください〜」

真夜中、二人は健太の家の近隣を延々と散歩した。それはここ三週間寂しい思いをしていた健太にとって思いがけない、夢のような時間だった。
「ここは外ですよー」
一応、ユキは健太に言ってみたが、健太はまるで聞く耳もたず、ユキを真っ暗な公園のベンチに横たわらせて、その上に乗っかってきた。
「好きって言ってほしいな」
健太がいうと、ユキは笑いながら言った。
「仕事してるときの健太さんが好きです」
健太は目を凝らしながら、ユキの黒いブラウスのボタンをいくつか外して、黒いキャミソールを下からまくりあげた。白いブラのホックを緩めて、カップを上にずらすと、乳房があらわになり、健太がそれを舐めたら、ちょっと甘いような酸っぱいような味がした。健太はユキの白いスカートに手を伸ばし、やはり白いパンティの横から指を差し込んだ。スカートを上にまくりあげると、黒いスニーカーを履いたユキの真っ白な脚が二本、ベンチを跨いであらわになった。パンティを脱がすと、周囲が暗いせいか、ユキは手で隠そうともしないので、豊かな陰毛を健太は目の当たりにすることができた。
その下に健太が指を差し込むと、ユキの口から吐息が漏れた。健太もズボンを半分脱いでパンツもおろして、息子を挿入しようとするが、いつものようにスムーズに入らず、ユキが痛がったので、途中で抜いて、ユキの股を大胆に開脚して、口が骨にぶつかるほど激しくクンニを開始した。
「え!?ちょ…」
ユキは戸惑ったが、べつに抵抗はしなかった。健太の唾液で濡れると、今度はユキの奥まで入った。ユキの顔を見下ろしながら健太が腰を上下に動かすと、その度にユキの顔が苦悶の表情に変わった。
健太は射精した後も抜かないで余韻を楽しみつつ、かえって激しく動かしてみると、ユキの口から、
「あっ…あっ…」
と息が漏れた。

気がつくと、辺り一面、雨の音がしていて、健太はベンチに独りで寝そべっていた。そしてさっきまで一緒にいたはずのユキの姿がどこにもいない。
(あれ?おかしいな、夢でも見てたのかな…)
そして、隣のベンチの下で何か白い影が動いた。
健太が目を凝らすと、それは七年前の春、名残惜しそうに旅立っていった、あの日の猫の姿そっくりだった。
(あれ?しろちゃん!?)
健太が目を凝らすと、猫は暗闇の中に消えていった。

二週間がたった。
ユキの同棲生活が始まると、彼女の健太への態度は一変した。LINEもほとんど当たり障りない返事ばかりで、既読スルーもしょっちゅう。そんな別人のようなユキを見るたびに健太は思った。
(オレが好きだった間女のユキ、五歳のユキはこの人じゃない。彼女が好きだと言ってた「嘘っぱちのおままごと」って…いったい、あれは何だったんだろう?)
そして、冷静に考えると、夜中トイレにこもって彼氏と電話してたときのユキの声は、どう考えても、人間のものというより、猫の声に思えてきた。
(もしや、しろちゃんが天国に発つ前にくれた、恩返しだったとしたら………相手が飼い猫ならまだしも、野良猫じゃ、そりゃ、彼女にできるわけがない、違和感があって当たり前だ)
と考えるようになったとさ。