笑劇
 ウッ星やつら(竹)

 ウーマンリブ
 オンリーワン
 ペンネーム
 ロケンローラー
 マザーコンプレックス
 ウォール
 チルドレン
 シークレットビール
 ハーレム
 プロモーション

ウーマンリブ


「ミス東大、ミス大蔵省で、今や政界のマドンナの片山さん、ようこそ恐怖対談へ」「いえ、どうも。一応、大学の先輩の頼みですから出てみました」「君は何年卒?」「82年度です」「じゃあ、ずいぶん後輩だな。だけど、ぼくが帝大に入れたのも戦争のドサクサのお陰だから、先輩ぶるのはおこがましいかな」「そんなことないですよ、吉行さんといえば、天下の芥川賞作家ですから」「この対談は恐怖について語ってもらう予定なんだけど、怖いものなんてないんでしょ?」「そりゃあ、ありますよ!」「何?」「秘密です」「みなさん最初はそうおっしゃるんだけど、そこを言わせるのがぼくの腕の見せ所でして」「人の秘密、暴いて愉しいですか?」「みなさん、終わってみるとスッキリしたなんていいますがね。ひとつ質問して良いですか?」「どうぞ」「♪私、待つわ、いつまでも待つわ、なんて唄があるけど、本当に女性はいつまでも待てるものですか?」「何をですか?」「もちろん運命の人ですよ」「ああ、私、今の夫と出会ってから結婚するまで六年もブランクがあるんです。その間に離婚もしてるし」「なるほど。じゃあ、今もまだ待ってるかもしれないわけだ」「それはないでしょう」「やっぱり君も、女だな」「どういう意味ですか?」「子宮で考えてる」「じゃあ、吉行さんはどこで考えてるんですか?」「(笑)ときに君は『子どもを産みたい』という本を出してるそうだけど不妊治療はまだしてるの?」「三十代までは頑張ってましたけど、もう諦めました。そういう運命なのかな、と」「待つのをやめたわけだ」「それだけが人生じゃないと、もっと違う運命を待ってるわけです」「違うウンメイって、革命とか?」「今回の出馬で、『改革を止めるな』という首相からの熱い要望には身震いしましたね。長いこと官僚やってると限界が見えてしまうんです」「子どもと革命を天秤にかけて、革命をとったわけだ。君はジャンヌダルクみたいになるつもりか」「それが天命なら、いつまでも待ちます」「やっぱり女なんだな。だけど、そんな子宮思考では革命家にはなれないよ」「何なんです、その子宮思考って?」「君はもし改革に失敗したら腹を切れるか?」「切れます。政治家は命懸けでやるべきですから」「じゃあ、君は女だけど、雌ではないようだな」「女と雌の何が違うんです?」「昔、アメリカのウーマンリブの指導者の写真を見たことがあるけど、これが女に見えないんで笑ったよ。男女同権なんて観念の問題だから、そりゃあ、いくらでも改革できる。だけど、厳然たる生殖において雌雄は永遠に不平等だからね」「どっちが得なんです?」「もちろん雌だよ。カマキリが良い例で、雄は雌に食われて栄養になってしまうだろ?人間社会だって男の方が寿命が短い現状では、男の方が損なんだろう。男女同権にしようってことは、女がわざわざその損を引き受けてくれるってわけだから、指導者が男でもおかしくないというわけだ」「でも雌としての得がない人は、社会を変えて女として満足するしかないじゃないですか」「だったら君自身が変わればいいじゃないか」「どんな風に?」「男も社会も相手にしない人間に」「そんな主婦みたいに大人しく家にすっこんでられるわけないじゃないですか」「だったら女を捨てて改革の鬼になるしかないな。乳房丸出しで旗を揚げるジャンヌ像みたいに」「マドンナですから、それは無理です」「じゃあ、いくら待っても時間の無駄だな」「何故?」「いまさら孝謙天皇みたいに女帝にもなれないだろ」「政界の女帝にはなりたいです」「なるほど。君の怖い物が、今わかったから、今日の対談はここでお終いにしよう」「私の怖い物って?」「それを無くすくらいなら死んだ方がマシというものさ」「?」「それを利用して政界入りしたんだから無くすのが惜しいのも当然だろうけど」「?」「子どもは手に入らず、その上、改革も逃したら、待ち甲斐のない人生だね」「ええ、間違いなんて一つもない人生です」「そう平気でいえる君がオニババより怖ろしいよ」2006年5月11日

オンリーワン


「『K子と申します。四十代の主婦です。結婚はしていますが、子どもはいません。主婦に専念できるほどお金の余裕はないので仕事をしていますが、二十代半ばから対人恐怖やウツに悩まされ、今も治療を続けながら短期間の仕事をしています。料理は得意なのですが、病気のために家事がしっかりとできないので自分のことを専業主婦だとは思えません。ましてや、大した仕事をしてるわけでもなく、子育て中のママでもなく、一体、自分が何者なのかアイデンティティが持てません』『あなたのお手紙を拝見して、とても真面目な人柄がひしひしと伝わってきます。あなたのアイデンティティのポイントは、仕事と、家族と病気の治療です。お手紙から察しますと、仕事は基本的な能力は十分におありですし、旦那様もよきサポーターのようですし、病気についても不安定ながらも治療を続けておられる。カードは揃ってるわけです。焦らず無理せず主治医ともチームを組んで、少しずつ可能性を広げていけばいいと思います』だってさ。新聞の人生案内に投稿してみたんだけど、精神科医ってみんな当たり障り無い事しか言わないよね」「そうそう、頑張って!は禁句なんだってね」「で、クスリばっかくれるんだ。放っとけば自然に治ると思ってんじゃない?」「何てゆうかさ、もっとギュッとして欲しいのにね、こっちはさ」「うん。せめてギョッとすること言ってくれた方が愛の鞭っていうかね」「ギョッっていえばさ、うちの旦那、馬鹿でさア、笑っちゃうの」「どんな風に?」「男のくせにお菓子好きでさ、アンパン買ってきて、そン中に生クリーム詰めて食ってんの」「自分で作るの?」「そう。生クリームも自分でホイップしてさ」「マメだねー。だけどどうやってアンパンの中に生クリーム詰めるの?」「でっかい注射器使ってた」「美味しいの?」「一個で十分って感じかな…」「生クリームはそんな一杯は食べられないよね」「奴は一日三食それだけでもいいなんて言ってる」「ゲッ…」「でしょー!?」「だけど、それ売り出したら案外売れるかもね?」「旦那も最初はそこらじゅう探し回ってた」「で、あったの?」「どら焼きの中に練乳クリームっていうのはあった」「へえ、おいしそう!」「で、それ、めちゃ安いんだけど、食感が柔らかすぎるって、わざわざアンパン買ってきてクリームだらけになりながら作ってるってわけよ。バカでしょー?」「へえ、シビアー。じゃあ、日本中探しても手に入らないオンリーワンを自作しちゃったわけね」「スーパーさえあれば日本中どこでも作れるけどね」「何か、それ聞いて思い出しちゃった」「何を?」「♪値札のついた心 ワクからはみ出せない ♪やさしい言葉だけじゃ 物足りない ♪うめぼしたべた〜い 今すぐ君に会いたい」「ああ、スピッツの『うめぼし』ね。なつかしい」「正宗くんは、うめぼしを何に喩えたのかなあ」「何でまた?」「それもオンリーワンって感じじゃない?」「旦那に聞いてみなよ。梅干しって、どんなときに食べたいかって」「そうじゃなくて、♪今すぐ君に会いたいってことは、恋人の何かに喩えてるわけじゃない」「あ、確か、旦那のアンパンにも梅がのってた。あの酸っぱさとあんこの甘さが男にはたまんないんじゃない?」「それ桜花の塩漬けでしょ?何でああいうことするんだろうね?チャーハンの紅生姜とか、日の丸弁当とか、中華まんとか…まるで、おっぱいみたい」「それだ!K子のアイデンティティ!」「何で、おっぱいが私なの?」「だって旦那がどこ探したって売ってないし、自分でもつくれないでしょ?超オンリーワンじゃん」「そっか、女であれば誰でも持ってるしね。これが私の正体かア…」「やめなよ、ブラの宣伝じゃあるまいし、持ち上げんの。でも、どう?アイデンティティの重さは」「つか、ちょい邪魔」 2006年5月12日

ペンネーム


「大庭佳奈子って本名ですか?」「いえ…あんまり言わないで下さい、大バカ、大バカって」「ああ、大馬鹿なコって意味なんだ!?」「そりゃあ、そうでしょう?風俗嬢の仕事にハマった挙げ句に子宮頸癌になったんだから」「今は結婚して幸せ?」「ええ、まあ。やっと自分の本当の居場所が見つかったって感じです」「最初、『風俗依存症』って本のタイトル見て、これ男の読む本かと思ったけど、書いてる人が女性で、しかも元風俗嬢っていうんでビックリしたよ」「本人だから書けるんでしょう」「飯島愛の『プラトニックセックス』にしても、女性の方が赤裸々に書けるよね」「誇張したり、嘘は書けませんから」「マジメなんだね」「真面目な人が風俗嬢なんかやりますか?」「こないだ千葉七区の補選で当選した太田議員も元キャバ嬢だし、今は関係ないんじゃない?」「私、考えが古いのかなあ」「お家のしつけ、厳しかったでしょ?」「そうでもないけど」「親がインテリとかで、チヤホヤされて育ったとかは?」「裕福な家庭だったとは思う。私、男兄弟の中の一人娘だから、小さいときから、かわいがられて育って」「お母さんも美人?」「すっごい美人!…らしい。授業参観のとき、みんなにお母さん美人だねーって言われた」「ライバルだった?」「ていうか、一緒に買い物とか旅行に行くと、すぐ喧嘩する」「本の中にさ、セックス依存症のこと書いてあるけど、結局、何が欲しかったと思う?カネ?それとも愛情?」「安心感とか、安定みたいなものだと思う。オトコとか結婚はその手段に過ぎないって」「今は依存症はない?」「セックス依存はないです。けど、子どもは欲しいんです」「そしたら今度は子ども依存症になっちゃうんじゃない?お受験だの、バイオリンとか習わせたり」「いいじゃないですか、手に余るほど産んじゃえば。一人より二人、二人より三人、三人より…」「そうやって夢見てるだけなら楽だけどねえ…逆に、風俗嬢になって失ったものってある?夢とか」「健康なカラダですね」「癌になったから?」「それだけじゃなくて…まったく、感じなくなっちゃった」「不感症?」「だって一日五人とかと四年も相手してたんですよ」「旦那さんにも無理?」「だからいつもローション使ってる」「だけど、そんな、感じない体で子どもなんて産めるかね?」「痛くなくていいじゃないですか?」「そんな事言ってるから大バカなんだよ。そんなにライバルに勝ちたい?」「お母さんは別にライバルっていうつもりはないですけど…負けたくはない、かな」「こうして本まで出して、もうお母さんより十分立派だよ」「リッパとかじゃ、納得できないんですよ。普通でいいんです」「十分普通じゃない」「いえ。お母さんに比べたらまだまだ」「家庭だって、子どもだって他人じゃない?せっかく病気になったんだから自分の体を労りなよ」「でも、子宮は子どもを生む為の器官でしょ?それを正しく使わなかったから病気になったと思うんですよ」「だけど、ある年齢がくれば誰だって女でなくなるわけだろ?」「更年期障害はお母さんも苦しんでた」「それだって君の病気みたいなもんじゃないか。正しく使ってりゃ、そうはならないよ。まったく蛙の子はカエルだな」「食べることとマッサージくらいしか楽しみのない体をこれ以上労ったって、安心できません。私、安心って愛情を与える相手があってこそだと思うんですよ」「昔から『女は三界に家なし』っていって、どこにも居場所がないから、女はどこのうちの子だって等しく叱ったものさ。君はせっかく本だして有名になったんだから、自分で付けたペンネームを居場所にして世の中を叱るしかないだろ」「そんなら、あんなふざけた名前つけなきゃよかった」「赤裸々なね」 2006年5月13日

ロケンローラー


「『卒業』大ヒットおめでとう。一部の学校で放送禁止になってるらしいね」「知るか、そんなの。校内暴力なんて昔からあっただろう」「それより、君は十代のカリスマなんて呼ばれて、テレビにも一切でないし、マスコミを嫌ってるようだけど、僕との対談、よく引き受けてくれたね」「村上さんの小説には、少なからず共感するんでね」「君も小説書いたりするのか?」「下手くそだけどね」「それ出版したらどう?」「書いたりするのは、自分の過去を卒業してくためにしてるんでね」「『支配からの卒業』って歌詞があるけど、あれは反体制的な意味じゃないのか?」「ちがうよ。自分自身を卒業していくってことさ。アルバムタイトルの『回帰線』も、人生はその繰り返しだっていう意味さ」「ちょっと、待ってくれ。僕は大変な誤解をしていたよ。『存在』の歌詞で、『受け止めよう、愛や真心で』というのがあるけど、それが自分自身という存在じゃなかったのか?」「それも時間が経てば邪魔なんだ。ありのままの現実を受け止めるには過去の自分を卒業していくしかない。そのために告白するんだ」「僕はジャズやロックを聴いて育った初めての世代だけど、君の音楽はロックンロールと表現したらいいのか?」「カテゴリーなんて、何だっていいよ。しいて言えば、偽物ろけんろーかな」「ニセモノ?そんな卑下しなくても」「別に卑下してないよ。ありのままの時代の現実と戯れてるだけさ」「時代が偽物ってこと?」「オレらには仕組まれた自由しかないだろ。金を稼いで、酒を呑むくらいの自由しか」「だけど、一体他にどんな自由がある?」「さあね。オレのおやじなら知ってるかもな」「君のお父さんは自衛官だっけ?」「オレも自衛隊病院で生まれたんだ」「だけど、無制限の自由には無制限の危険もあるんじゃないか?」「きっと、喜びも悲しみも無制限だろう」「それでも自由が欲しい?」「いくら考えても、体験しないとわからない。オレらの社会にリアルなものなんて、戦争と愛くらいしかない」「僕の最近書いた『OFF』っていう小説、読んだことないか?」「ああ、知ってる。すごくリアルな文章だと思う」「だけど、あれが愛とは言えないだろ。確か君の曲に『世の中のわからぬ二人に一体どんな愛が育てられるというのか』って歌詞があったけど、愛って何だと思う?」「単なる関係性だろ。同化作用といってもいい」「それなら男女じゃなくても成り立つじゃないか。動物と人とか、物と人、国家と人でも」「それもそうだけど、ケネディとマリリンモンローの間にだって成り立つのが民主主義の自由ということだろう?愛ある場所では教師と生徒も同化するし、医者と患者も同化するし、売り手と買い手も同化する」「あらゆる立場の壁も乗り越えると?」「立場もそうだし、国境とか性別も全部、頭の中の壁にすぎないから。『愛の消えた街』で『愛なんて誰にもわからない』って歌ったのも、愛は体験であって言葉ではわからないということさ」「君はまだ若いのにモノを考える人間だな」「考えないでオトナになれた方が楽だよ。オレは高校中退だから、人より自分で考える時間があっただけさ」「君からしたら社会に順応するサラリーマンは犬に見える?」「繋がれる快感っていうのもある。オレらはどう足掻いても、社会に繋がれた野良犬さ。その鎖に抵抗して生を貪るしかない」「別に抵抗しなくてもいいんじゃないか?人は追い込まれた立場から脱出も考えるが、そこに意味づけることも考えるものだ。そのうち死ぬんだからと、諦めることからも夢は育つと思うけどな。僕にとって小説はそんな負け犬の夢みたいなものだ」「オレはローリンストーンみたいに重い人間だから、ヤシの木に登って夢見るなんて風流には生きられないのさ」「さっき君は自分の音楽を偽物って言ったけど、君の告白はあまりに重いから、その生真面目さと軽薄さがちょうど釣り合うのかもな」「人生はあまりに長くて退屈だから、できるだけキチガイになって乱痴気騒ぎしながら日々を告白していくしかない」「しかし、告白することが尽きたら、そういう君の生き方も破綻しないかな?」「愛ある限り告白すべきことはあるさ。言い訳しかできないオトナになったら、死んだ方がマシさ」「何も死ぬことはない。犬も歩けば棒に当たるものだ」「棒に当たるくらいならジッとして歩かない方がいい」「それこそ退屈だろ」「いいクスリがあるし、ケツの穴掘るのも気持ちいいもんさ」「痔になるぞ。君はやっぱりテレビに出ない方がいいかもな。今の発言、削除しとくよ」「やっぱりアンタもマスコミの犬だな」「君と同じ、老犬ローラーさ」 2006年5月18日

マザーコンプレックス


「尾崎さん、こんばんわ。タレントのさとう玉緒と申します。私の悩みを聞いて下さい」「悩み?」「私、女のクセにマザコンなんです」「何でそれが悩みなの?」「だって、いい歳して恥ずかしいじゃないですか?」「僕の最新アルバムの最後の曲に『ママ、セイ・グッバイ』ってあるんだけど、あれは完全にマザコンの唄だけど、別に恥ずかしくないよ」「それは唄だからですよ!私の思い込みかも知れませんけど、日本人って母親を大事にしないと思うんですよ」「それは封建制のせいだよ」「ホーケイのせい?」「誰だって自分が生まれてきた場所を愛したいのは当然さ。だけど、それをタブーにしとかないと社会はできないだろ?結婚だって」「あ、それで私、いまだに結婚できないのかなア」「結婚したいの?」「したいですよー…」「ホントに?」「だって、それが親孝行でしょ?」「僕みたいに結婚したって、この通りマザコンは治らない病気らしいよ。それどころか、年の暮れに母が亡くなってから病気はひどくなる一方さ」「どうしたら治るんでしょうかね?」「親から貰った愛情は消せないから、身代わりを探すしかないよ。最近、それが現れて困ってるんだよね…」「恋人ですか?あれ?尾崎さんって、お子さんもいるんですよね?」「うん。だけど、彼女と会ってると思い出しちゃうんだよ。『ママ、セイ・グッバイ』も彼女にインスパイアされて出来たんだ」「でも、いいですね。そうやって、お仕事につながる病気なんだから」「仕事っていうのは自分の仏像を彫るようなものだよ」「かっこいい!私の仕事なんか、私じゃなくたってできそうだもんなア」「それは仕事じゃなく、労働だよ。だったら生活の中でお酒飲んだり、遊んでる君の方が、よっぽどいい仕事してるはず」「私、最近やっと、いいテンションで仕事に打ち込めてるときがあるんです。それが仏像彫ってるってことなのかなア」「君、お母さんはまだ健在?」「はい。ですが、先日、脳梗塞で倒れて死にそうだったんです。それ以来、親孝行しなきゃって」「生きてるうちに親孝行はしといた方がいいよ。僕みたいに死んじゃった後で、いくらサヨナラなんて歌ったって後悔先に立たずだから。お陰で毎日、酒浸りだよ」「体に悪いですよ」「仕方ないよ。仕事すればするほど思い出されるんだから」「ある意味、辛い仕事ですね、ミュージシャンも。いっそ、ホントの仏像、作っちゃえばどうですか?それに毎日お参りするんですよ」「これがどういうわけか、仏像じゃダメなんだな。本物の柔らかい感触じゃないと」「それで身代わりが必要なんですか…いっそ、その彼女だけじゃなくて誰でも彼女にしちゃったらいいじゃないですか!?」「なるほど、それなら酒に浸るヒマもカネもない。何か、君の悩み聞くはずが、反対になっちゃったね」「いえいえ、後悔先に立たずですから。私も早く旦那様、見つけよーっと」「じゃあ、誰でも旦那にしちゃうんだ!?」2006年5月20日

ウォール


「やあ、ヨーロー君、恥ずかしいときに穴があったら入りたいとはいうけど、君は、壁があったらどうする?」「やあ、コーボー君、芥川賞おめでとう。泣かぬなら泣かせてみせようホトトギスみたいに、壁をなくしてみせよう」「魔法でも使って?」「壁に鏡を貼っちゃうとか、ダーツのマト貼っちゃうとか、そこは知恵の使いどころだ。じゃあ君は壁があったらブッ壊すのか?」「そんな、信長じゃあるまいし」「じゃあ、家康みたく壊れるまで待つか?」「そんなに気長じゃない」「じゃあ、ドストエフスキーみたく、そこでひょいと曲がるか?」「それもキリがないな。僕は壁の中に入っちゃうね」「そんな魔法あるのか?」「段ボールかぶって歩くとか、クジラになっちゃうとか、これも君と同じく、知恵の使いどころだ。だけど、君はつくづく物書きの才能があると思うんだけど、何で解剖ばかりやってるのか?」「死体には嘘がないからさ」「生きてる人間に真実はないか?」「あったらM君は割腹してないよ。ボディビルだの柔道だの、いくら身体を酷使したって、そこには何の真実もない」「そうかな。サルトルの小説なんか読むと実に肉体が語ってると思うけどな」「それは彼がフランス人だからさ。日本人に肉体なんて江戸初期からないのさ。肉体がないから切腹とか特攻隊なんて美学が生じる」「何でそうなったんだろう?」「日本人はもともと手を使わないで箸とか楊枝を使う民族だしな」「だけど近頃の若者は学生紛争とか性解放とか、ちょっと肉体ありすぎじゃないか?」「旧来のモラルやタブーが崩壊すると、いつの時代と場合でも、官能性が奔放に氾濫すると丸山真男が指摘してる。それは戦争直後だとか時代の転換期だというんだ」「じゃあ、その一時期に生まれ育った世代だけは箸で食うメシよりも、フランス人みたく手でちぎって食うパンを好むってわけだ。それがアプレゲールとか団塊の世代ってわけか」「まあ、社会的発情期みたいなもんだろうな」「君は戦前生まれだったよな」「国民学校の三期生だ」「じゃあ、君も身体のない大和民族のクチじゃないか」「そうかもしれない。だけど僕は他人の死体から身体を学んだんだ」「そんなら、よく供養しとかないとな」「だから、最近はそのつもりで本書いたり、講演してる」「ずいぶん稼いでるらしいじゃないか」「冗談じゃない。ほとんど必要経費で消えてる。だいたい今、横浜でやってる人体の不思議展だって、パンフに僕のコメントと写真まで載ってるけど一銭も入りゃしない!ありゃ詐欺だ」「亡霊が一人歩きってわけだ」「しょせん、情報だからな、カネも名前も身体以外の一切は」「身体も情報じゃないのか?DNAだって遺伝子情報だし、臓器移植だって整形だってできるじゃないか」「そういえば、中国じゃあ、誰の物とも知れない死体だの臓器が流通してるんだ。そういう意味じゃ、確かに身体も情報だな」「そのうち細胞なんかも売買されるかもしれないから、僕の精子、冷凍保存しとくかな。将来、高く売れるかもしれない」「しかし、この少子化、どうするんだろうな。20年後の社会保障費は73%アップだと。僕らの孫の時代には、生まれる前に破産宣告されてるようなもんだ」「可哀想にな。市販パーツで人間も組み立てるか。鉄腕アトムみたいに」「どうも日本の少子化対策はカネの話ばかりで、これも身体がないせいだろうか。フランスみたいに週35時間労働にしてもオタクが増えるだけで、子づくりに励むとも思えないな」「まあ、政治には限界があるよ。いまさら禁欲的な封建社会に戻るわけにも行くまい。だけど近頃の子どもは動物を平気で殺したり、親まで殺すってことは、これも発情中なんだろう」「なるほど。フロイトの死の欲動ってやつか」「それを生の方向に反転させりゃいいわけだ」「どうやって?」「壁にぶつけりゃいい」「どこにあんのさ、そんな壁」「君の得意な、脳味噌の中だ。論語でも読ませりゃいい」「そんなの今の子供には、豆腐の角で頭を割るような話だ」「どうせ身体がないんだから味噌でも割れらア」2006年5月24日

チルドレン


「早川さん、こんにちわ。お父さん元気ですか?」「父親のことなんて話したくない」「ファザコンですか?」「まさか。父親の思い出といったら、恐怖と怒りしかないから」「だから、それがコンプレックスなんですよ」「別にああいう人間になりたくないとも思ってなかったよ」「でも、結局、身内の中でただ一人、思い通りにならなかったんでしょ?」「まあ、一番の親不孝者だね」「それが、お父さんの無意識の代弁者ってことじゃないですか?」「親父は人間の弱さとか愚かさみたいなものは、何も語らなかったから。そこを全部、僕が引き受けちゃったってのはある。そういう意味では親父のコンプレックスが僕という存在かもしれない」「結局、お父さんとは解り合えたんですか?」「ずいぶん遠回りしたけどね」「それにひきかえ、今の親子は一緒にテレビゲームして遊んだりするらしいですが、そういう友達みたいな親子って羨ましいと思います?」「子どもって大人の気づかないところを見てるもので、友達だと思ってるのは大人の方だけなんじゃないかな。ずいぶん冷めて見てるかもしれないよ」「冷めてるっていえば、最近、親子の殺人事件とか多いですけど、あれも大人の方に問題があるんですかね?」「だけど、親がだらしない分、子どもがしっかりするもんだよ」「じゃあ、反対に、親がしっかり者だと、子どもは…」「僕みたいにかっこ悪い人間になっちゃう?」「いえいえ、早川さんのことじゃなくて、自民党のチルドレンのこと心配してるんです」「小泉チルドレン?」「親がやめた後、どうするんだろうって」「僕みたいに親不孝者になるしかないんでしょう」2006年5月26日

シークレットビール


「こんな水みたいなビール、飲めるかッ!これでは、発泡水にビールって貼って売った方がよッぽどいいくらいだ。いつから我が社はこんな粗悪品作ってるんだ?」「社長、これは前代社長、つまりお父様の営業戦略でして、大豆を原料にしておりますので税金が安いんです」「私がたった五年間ドイツに留学してる間に、たかが税金対策の為に創業以来、百年の伝統が壊れたというのか?」「ええ、その…コストダウンだけでなく、今やカロリーオフが世の流れでありまして」「ダイエットブームか」「ええ。それにメタボリックシンドロームなんて流言も飛んでおりまして」「何だ、それ?」「いわゆる生活習慣病です。ウエストが85センチ以上の人は脳梗塞とか心筋梗塞の危険が大きいとマスコミも騒いでおります」「ドイツでは、そんな心配してる人はいなかったぞ」「あっちには隠れ肥満とかいなかったですか?」「85センチなんていったら、みんな肥満だから誰も気にしない。だいたいタバコにしても、どうせ吸うなら本数減らして、濃いのを吸った方がうまいに決まってる」「それができないから1ミリタバコが流行るんでしょう」「そんなの煙、吸ってるようなもんだろう」「いまは、酒なんかも美味いかマズイではなく、習慣ですからね。だから第3のビールなんて、飲んだ気になればいいというわけでありまして」「それも今回の増税で値上げだろ?せっかくの企業努力も水の泡じゃないか。そのうち第4のビールがでて、しまいには第5のビールなんて酒の醍醐味もなくなるなあ。これじゃあ、まるで禁酒法だ」「何です?それ」「昔、アメリカで酒精飲料の醸造・販売を一切禁じた法律でさ、かえって密造酒が氾濫して、ギャングが巨利を得たことから、後に悪法と言われたんだ」「ということは、今は一体誰が巨利を得てるんですかね?」「さあな。ダイエットとかメタボリックなんたらとか騒いでる連中じゃないのか?」「医者とかマスコミ?」「そういう隠れギャングが横行するから、隠れ肥満が増えるんだろ?」「わかりにくい世の中ですねえ」「ギャングの作戦がわかりやすかったら、誰もひっかからないだろ」「それじゃあ、我々もギャングになるしかないッすね!?」「どうやって?」「社名隠して、ヤミの世界で、とびきり旨い密造酒、売りまくるンすよ。名付けて、シークレットビール!ラベルはゴールドメッキ!」「そんな名前もラベルもないほうが密造酒らしいだろう」「それじゃ、結局、水と同じだ」2006年5月30日

ハーレム


「うわー、ピカピカ。大変だったでしょ」「二時間かかった。ひどい油汚れだったけど、アルミ鍋って懸命に磨けば完全に汚れとれンのよ」「こないだは、銅のヤカン磨いてたけど、最近ハマってる?」「なんかね、気持いいの」「でも、疲れない?」「コツがわかってくると大丈夫」「どんなコツ?」「汚れが落ちるときの手の感触っていうか。だから必要以上に洗剤つけなくていいし、力入れなくてもいい。落ちろ!落ちろ!って念じるみたいな」「ふーん。根気で洗ってるわけだ。ところで、来月さ、一緒に旅行いかない?」「どこに?」「うーん、いまンとこ、信州か北海道かな」「まだ寒いんじゃないの?」「別にホテルとかクルマん中にほとんどいるんだからいいじゃない」「ま、そうだけどさ。なんか面倒くさいなア」「ノリがわるいなあ。そんな、鍋なんか磨いたりしないで、そと出なよ、飲み行ったりカラオケとかさ」「つうか、そういうのも疲れちゃったってゆうかさ」「ストレスたまんない?」「だからピカピカにすると気持いいんだって」「そーかなー、なんか無理してるよ」「無理したほうが、こう突き抜ける感じで気持いいんだって」「変だよ、それ」「何てゆうかさ、限界に挑戦!とか不可能を可能に!みたいなチャレンジャー精神?」「あたしには無理だな、そういう根性ないし」「でもさ、それだと何やっても中途半端じゃない?」「そんなことないよ」「失恋で泣いたこととかある?」「そりゃ、あるよ」「ふられたの?」「いいじゃん、もうそんなの」「恋人つくらないの?」「別に。現れないんだから仕方ないじゃん」「無理しようとしないから、壁を突き抜けられないんだよ」「いいじゃん、放ッといてよ。そういう自分はどーなンよ」「あたし?これ秘密だけどさ、こないだ捕まった一夫多妻の男いたじゃん?アレ、元彼なんだ」「えー!マジ?あんなつるッパゲのどこがいいの?」「すッごいの」「え、何が?」「アレが」「アレ?」「もうね、野獣って感じ」「だけど、あの人、五十越してるよね」「何か、昔、スポーツ新聞のエッチな記事とか書いてた人らしくてさ、世界中の女と寝たらしいんだ」「そンじゃあ、ビョーキとか持ってないのかなア」「彼曰くね、それより妄想に襲われるんだって」「どんな?」「首のない女とか足のない女が夢に出てきて、金縛りに遭うんだって」「それコワー。だけど、あのハーレム、これからどーなンだろうね?」「籍入れてないんだから、解散でしょ」「解散したところで女の人達、帰る家ないんじゃない?何だか、かわいそー」「それじゃ、修道院にしちゃうしかないね」「尼さんみたくアタマ丸めンの?」「そう。そしたら、あたしが院長になって、そのアタマ、毎日磨きにいってあげる。ピカピカに」2006年6月1日

プロモーション


「ヘイ、マイケル!」「ハイ、ヨンジュン」「マイケル、TDLどうだった?ビックカメラにも行ったんだって?」「オー、イエス!子ども達と久しぶりにネバーランドに帰った気分で楽しかったよ。ところで雑誌で見たんだけど、ヨンくん、不眠症なんだって?ひょっとして、こないだのマンションの火事も…」「誰にも言わないで欲しいんだけど、実は今、医者からクスリもらってるんだ。君のような大スターなら僕の孤独な気持ちわかるだろ?」「それはきっと神の洗礼だよ」「僕は別にキリスト信者じゃないよ」「ちがうよ。市場教の神のことだ」「シジョウ教?」「君はスマトラ地震にずいぶん大金を寄付したね」「義援金のこと?」「そう。確か日本のメジャーリーガーも寄付したけど、今、彼は怪我で休場してるだろ」「ゴジラマツイのこと?」「あれも神の洗礼だ」「そういう君も経験があるのか?」「僕が大豪邸を築かなきゃならなくなったのも、そのせいさ」「それが大スターのステイタスじゃないのか」「君はまだ何も知らないようだな。あんな砦を築かなけりゃ独りで居るのが不安だからさ」「砦はいらないけど、パートナーは欲しいんだ。最近、友人の結婚式に出ると、やたら羨ましくて」「僕にもそういう時代があったけど、大人には不純なものを見てしまうんで、ずっと子どもと暮らしてる」「でも、君には音楽があるじゃないか。小さいとき君の大ファンだったから、『オフザウォール』とか『スリラー』はよく聞いたよ。黒人音楽なのに誰でも受け入れられた。あれこそ自由な砦じゃないか」「僕自身、そういう障壁を壊すのが楽しかった。黒人と白人の壁を壊そうとして、肉体改造までしてみたり。あの頃は東西冷戦の時代だったし、何でも混ざり合えると思ってたんだろうけど…こないだのニューオーリンズでの政府の対応みてもわかるけど、所詮、アメリカは白人のものなんだ。君が歯並びを整形したりするのもハリウッドスターみたいになりたいんだろう?」「僕は別に映画を観て育ったから映画に感謝したいだけさ」「義援金だって宣伝費じゃないのか?」「ちがうよ!心から力になりたいって思ったからさ」「じゃあ、今度のジャワ地震にも、また贈るか?」「うーん、今は自分の精神状態がそれどころじゃないんで」「何でそんなに眠れないと思う?」「有名になりすぎたから?」「人間は人間の姿のまま神にはなれない。名声が君の魂を奪ってるのは、市場教がそれを神にしてるからさ」「僕は神なんかじゃない!平凡な男だ」「でも、やってることはファンからしてみれば神様みたいに見えるんじゃないのか?」「ファンじゃない。家族だ」「そんなら、君は仕事を捨てて、君のこと誰も知らない世界に逃げるしかないな」「君も、それで日本に行ったのか?」「今回はMTVのイベントで行ったんだ」「ずいぶんリップサービスしたらしいね」「日本は神なんかいない珍しい国だから愛してるのさ」「だけど僕が行ったら、またヨン様なんて騒がれて、また眠れなくなる。もう行き場がないよ」「大丈夫、日本人は忘れっぽいから、しばらく隠れちゃえばいい」「そんなことしたら、メディアに何て書かれるか!」「偽善金より悪い噂をプロモーションに使うのが大スターってもんだ」2006年6月2日