荒夜死記 (病)



瘤人 映雄 幽麗 醐味 綻美 泌蜜 黒医 鏡弟 冥惑 完静 架手 回戦 神聞 駿女 仇花 後報 現抜 微象 霊戦 齬呂 祝敵 苦嘘 合烏 秋桜 桜散 金由 莫迦 写動

瘤人

霊界にはケモノの亡霊も多い。かゆくて掻きまくってる犬。首だけちょん斬られてさまよう鶴。手足までバラバラな猫。毒を盛られて苦しみもがく象やパンダ。「彼らは人間に殺された犠牲者だ。なぜ人間は雌雄でその争いをしない?われらは子孫繁栄のために雄が雌に食われる掟なのに」そう嘆いたのはカマキリの亡霊。そこへ頭のてっぺんにコブのある人間がきた。「人間も実はそうだ。男が女に食われても生き続けるだけの違いだ。唯一、食われない道は女や家を断ち切ることだ」「したら絶滅してしまうではないか?」カマキリが問うと「何も繁殖を絶つとはいってない。子を生ませたらすみやかにそこを立ち去れと説いて歩いただけだ」カマキリ曰く「それであのように他の生き物に危害が及ぶのではないか?断ち切れないものを無理に立ち去るから」そこへ坂口安吾が割り込む「遊びせむとや生れけむ。女に食われて生きるくらいなら自ら死んだ方がましだ。私はさんざん遊び飽いたから最後に世を立ち去るついでに女に食われてやったのさ」「その飽くなき遊びが自然への罪悪であり、人間という病いだ」そういったコブ人間をまじまじと見て安吾「あっ…あなたが、お釈迦様でしたか」

映雄

先日、渋谷のNHK本社を爆破した男について知人のコメント。まず大学の同僚「そういえば彼は一度、NHKの入社試験に落ちてるはず」大学の担当教授「そう、知り合いの社員に彼をよろしくといっといたのに…そんなはずはないといって答案を見せてもらったら、目も当てられない点数で、まったく恥をかいたよ」その社員「ええ、ええ、知ってますよ、彼の事は。ずいぶん前に一回会ってますしね。あんまり環境のこと熱く語るんで〈君は意外とNHKに向いてるかも〉といった記憶があります」以上の証言から男は入社できなかった逆恨みで犯行に走ったもよう。多数の命を奪った上、報道機関に多大な損害をもたらし、公の秩序を著しく乱した罪で一審は死刑を求刑。現在、二審は裁判員制度が導入され審議中。ところが、この審議が泥沼化の様相。その主因たる女性裁判員、実名を明かしてブログにこう訴えた。「報道機関がスクラム組んで政治権力の広告塔になり下がってる現状に異議を唱えて決死の行動に及んだ被告は、民主主義の英雄です。彼こそ、男の中の男です!みなさん、彼を救ってください!」愛は法より強し?何のことはない、被告の男にひとめ惚れらしい、と世間の風は意外と冷たかったという。

幽麗

美人女優が幽霊に恋をした。耳の中でときどき囁く言葉に従って「着物がいい」となればドレスのシーンを着物に替えたり、台本のセリフを古風な幽霊語で吹き替えたり、友だちの出ているドラマに本編とは関係ない場面を設定してゲスト出演したり、関係者には迷惑がられていた。同期のコたちは派手な恋愛話やデキ婚で世間を賑わしていたが、彼女にはさっぱり浮いた話がない。それも当然。幽霊とゴシップなんてあり得ない。それでも乙女心に七夕の短冊にお願い事を書いた。「あの人と結婚できますように」それを見た姉「あの人って誰?」それで名を知らないことに気づいた。幽霊に名前?「いつも応えてばかりだから、たまにはこっちから聞いてみよう」自分がどんな演技をしたら幽霊は名を囁いてくれるか考えた。「そうだ、『天国の階段』みたいに記憶喪失の恋人に名前を思い出させる話なんてどうかな…」気づいたら台本が一冊できていた。

醐味

俺は老人ホームに捨てられたゴミ。半身マヒでおまけに言語障害。お前に俺の気持がわかるか?それは見知らぬジャングルで言葉も通じない連中に手足を縛られて捕虜にされる苦しみだ。食事などまるで喉を通らない。居心地が悪いと食欲すらなくなる。戦時中は人肉でも食ったというが、それは帰還できる希望があったからだ。もはや死を待つのみの俺が「早く殺せー!」と叫んでみても「何か言ってる」と困った顔をされるだけの虚しさ。今朝の新聞に「2035年に認知症が倍増」とあった。日本もお先真っ暗だな。ガラスをバリッと割る。さらに踏んで粉々に。分子レベルで見ればガラスには変わりないが製品としては使えない。破片は安全に危険ゴミとして捨てられる。それが今の俺だ。ガラスならリサイクルできるが人間は…。分子レベルでみれば同じ人間なのに老人だの認知症だのひとくくりにするから賞味期限の切れた食品のように捨てられる。老人だって学び働き遊び恋もしたい。それを使えないからと捨て、邪魔だから安静に寝かされてしまう。しかし近頃、愉しくなってきた。そろそろキチガイになってきたらしい。あらゆる人間を詛うのが生き甲斐だ。今朝も茨城で地震があった。いいぞ、富士山が噴火でもしたら、ざまあ見ろだ。世界の終わりの前に死ぬのが惜しくなってきた。

綻美

立花隆が膀胱ガンの手術中に霊界を放浪した時のこと。「僕はなぜ膀胱を病んだんだろう?やっぱワインの飲み過ぎかな?」呟いていると、そこへニーチェが「ちがう。怨恨のせいだ」「僕が誰を恨む?」そこへ坂口安吾「君は改憲を急いた前首相に罵詈雑言を浴びせたそうだね」「だってアイツは紙オムツ野郎で首に妙なシワがあるし、あの家系は短命だから、もうじき死ぬって言ってやったんだ」ニーチェ「ほら、恨んでる」「嫌いなもんは嫌いなんだ。暴挙には暴挙で当たるしかない」安吾「いくら政治は上皮の愚にもつかぬものといっても世相自体ホコロビだらけだから素手でカリヌイするのは危険だ」「僕も30の頃は『思考の技術』で戦っていた」ニーチェ「その防衛と武装こそ治癒本能だ。君にはアルコール類の厳禁をお勧めする。水で十分だ」安吾「だいたいインテリは本を読み過ぎだ。物書きは書斎なんて持つな。足で書け。いや股間を掻け!」ニーチェ「酒のついでに女も絶て」「それじゃ何を楽しみにすりゃいいんだよ!」安吾「世相のホコロビが気になるなら節操なく綻ばしちまえ」ニーチェ「君には書物類の厳禁をお勧めする。ワーグナーの音楽で十分だ」

泌蜜

「秘密売ります」彼女はその怪しいネット広告に目が止まった。クリックしてみると簡単な送信フォームが現れて、自分の名前や性別、生年月日などを記入するらしい。「ヘンな勧誘とか詐欺じゃないかな?」一瞬疑ったが、メールアドレスを記入する欄がない。「送りっぱなしならいいや…」安心した彼女はアンケートのつもりで適当なウソを書いて送信した。すると次の送信フォームには大きな空欄が現れて「はじめてのエッチについて詳しく書いてください」と出てきた。必死に思い出して書いたら、何だか安っぽい青春小説みたいだった。それを送信すると次は「最近したエッチについて詳しく」と出た。今度は少しは官能小説のように書けた。次は「一番気持ちよかったエッチは?」「一番ヤバかったエッチは?」…延々とエッチの質問ばかり十問続いた。「意外とあたしって秘密持ってるんだなぁ」やっと終了すると画面に自分の顔が現れた。「え!ウソ!まさか!どうやって!?」自分の顔がこんなに悪人に見えたのは生まれて初めてだった。ついにそのサイトから課金請求はこなかった。「一体、あのサイト、何の目的で秘密をタダで売ってたんだろう?それとも、人の秘密ってカネになるのかな?」

黒医

手塚治虫です。以前、とある女性推理小説家が『ブラックジャック』を読んで私のことを「端的に恐ろしい」といったそうだが、「命は地球より重い」などと軽々しく口走る人々の方が私には恐ろしい。慈善とか博愛とか尊厳とか、どれも白と黒の世界。しかし現実は違う。赤紙、赤点、赤字…生血を浴びて赤子は生まれ、誰もが血を吐いて死ぬ。命は青い地球というより真っ赤な太陽だ。しかし原子力の時代、火なんかどこにもない。命が燃え盛る炎だなんて誰が思えよう?医学など命の値段を算定する手段にすぎない。もとよりそれは算定できない。若い女の乳房があらわになったと思いきや、グロテスクな内臓がえぐり出される。物語の必然とはいえ『ブラックジャック』はエログロに溢れている。そもそも無免許で法外なカネを要求するナンセンス。タブー三拍子がそろってしまった。それは当時、虫プロの倒産で多額の負債を負った私自身の絶望的な心境と無関係でない。人は「手塚治虫」といえば大金持ちと思うだろうが、無差別殺人犯と同じくらい世を恨み、孤独な崖っぷちを歩いていたのだ。

鏡弟

霊界でも兄弟に喧嘩はつきもの。有島武郎と弟の里見とんが口論中。「お前は女遊びばかりしてどうしようもない弟だ」「兄貴はあんまり女を知らないから心中なんかで死んだんだ」「そのとおりだ。行ない、そして考える。それが知ることなのに、私は行なうより考えてばかりいた。結局、私は愛について考えたにすぎない。愛欲があれば、もっと知るために生きられたのに」「だけど女房は愛さない方が平和かもしれないよ。オスカーワイルドだって女を愛さない限り、男はどんな女とも幸福にいける、といってるし」「あいつはゲイだから、そんな…」「だけど兄貴が不倫と聞いたときは、やるなアと感心したね」「お前みたいに遊びのつもりは微塵もなかったがな」「僕の遊蕩はムダな愛を消費する手段で、遊廓はまごころ哲学を学ぶ道場だから」「うまいこといいやがる、この極楽トンボが」「まア、クソ真面目な兄貴のおかげで、ああはなるまいと思えたんで感謝はしてるけどね」

冥惑

迷惑メールに「自己紹介ホムペをつくりました」とリンクが貼ってあったので、試しに開いてみた。『本当の私』というタイトルで36歳主婦が写真と短い言葉を載せていた。末尾には送信フォームがあって、ここから愛人を募集するらしい。「旦那は元会社の上司で30歳年上。50代後半から急に性欲がなくなり、数年前からセックスレスに」数枚の写真は車の後部座席で長い黒髪の女性が一糸まとわぬ姿で様々なポーズをとっている。子供はいないというだけあって、まだ20代のような若々しい姿態。乳房はさほど大きくないが、形は崩れていず、乳首や乳うんはピンク色。陰毛はやや濃く、局部は巧みにボカされているが、皮膚の色が豊かな肉の厚みを想像させる。そこに突っ込んだ指や腕の血管が神経質そうに浮きだって、恍惚な口元やイッてる目と相まって、何か妖怪じみた不気味さすら漂う。何故かそそらない。世に数ある、この手のプロたちは決して本人は満足してはいない。その悲哀にそそられるのだ。「もっと『本当の私』じゃない方がいいんじゃない?」と迷惑なアドバイスを送信してやった。

完静

霊界では認知症の人とも会話できる。その老婆は昔、優秀な看護婦だったという。「けっこう大変な手術にも立ち会ったのよ」彼女は器用な人で油絵の個展を開いたりもしていた。「自分の世界を追求するって楽しいのよ」「追求して完成するんですか?」意地悪な質問をすると「完成しない方が幸せかもしれないわよ」「どうして?」「50くらいの時かしら、病院から児童施設に左遷されてね、その頃から仕事に興味がなくなって、ひたすら絵に没頭したわ。お金はいくらでもあったから、こんな畳二枚分はある絵を何枚も…それから認知症と診断されるまではアッと言う間だった…」老婆はそういいながら無表情に物を食う。「看護婦の頃はけっこう笑ったり、人懐ッこかったのよ」「認知症になると感情もなくなるんですか?」「感情なんて欲望の表れなんでね、完成しちゃうともう頭は空っぽなのよ。何を食べてもうまくもまずくもない。何も嬉しくないし悲しくもない。怒ることも何もない。閑静な世界ね」何事にも憤懣たえず、世事で騒々しい私の世界はまだ完成にはほど遠いらしい。「じゃあ、死ぬ事も恐くない?」「しいていえば、それが完全な完成よね」

架手

美空ひばりと平成の歌姫がご対面。「ベストフィクション聞きましたよ」「え!?ホントですか…」「ときにお子さん元気?」「ええ、もう十歳になりました」「週刊誌で見たわよ。ちゃんとごはんつくってるの?」「ごはんつくるだけが親じゃないと思うんです」「それはそうね。あなたにしかできないこともあるわね」「例えばひばりさんは?」「世間には見せられない、かっこわるい姿を見せるとか」「そんなのバリバリしてる…ひばりさんはステージから逃げ出したくなることありませんでした?」「そりゃあね。けどみんなのひばりを殺すわけにはいかないわ」「あたしはそこまで守れないなア。むしろ昔のイメージを壊したい」「時代は変わるものね。私はみんなが求めるならどんなひばりにもなったわ」「そのみんなっていうのが、もうみんなじゃないっていうか、国民的歌手なんて誰も求めてない、みたいな…」「私の出た頃は戦争が終わって何もなかったから、きっとみんな飢えてたのよ」「不安じゃなかったですか?」「必死だったから。歌が神様みたいなものね」「…かっこいい」「その神様に何位とか何万枚…なんてサブタイトルばかり目立つようになって、みんなで歌えない歌ばかりになったのよ。でもそれが流行歌の宿命でしょうけど」「わたしも不死鳥になれます?」「歌は世につれ、世は歌につれ。あなたが時代とともに化け続ければね」「時代かア…無差別殺人とか起こるヤバイ時代だもんなア…ちっと今度は『ワーストフィクション』でいくか」

回戦

イチローと三島由紀夫が霊界で談笑中。「ガハハハハ!」豪快に笑う三島にイチローが釘を刺す。「それ本気で笑ってないでしょ」「君だって、チームが勝ってもホントは楽しくないんだろ?」「ヒット打つのは楽しいよ」「君は産湯の記憶があるか?」「ないけど」「人生の絶頂期は子供の時分にあるのだ」「じゃあ、その後は?」「虚無だ。歌や童話の中で子供はいきいきしてるが、それは大人が勝手に描いた理想だ。現実に子供をよく見れば、ほとんど無表情のはずだ。なぜだと思う?」「さあ」「思想とか怨恨がなくて精神が安定してるからだ」「じゃ、笑うのが大げさな僕らも?」「そう。だから、お互い下手な芝居はもうやめようぜ」「やめないとどうなる?」「身を滅ぼす羽目になる、私みたいに」「あんたはもう死んでるからいいけど、テレビにもでなきゃならない僕は、どんな顔すりゃいいんだ?」「川端康成みたいに、クソ面白くも可笑しくもない顔してりゃいい」「あの人も結局、自殺したじゃん」「バカ言え!虚無に堪えたから、あんなに長生きできたんだ」「じゃあ、今、百歳とかで笑ってる老人はどうなってんの?」「体中疥癬で痒いんじゃないか?」

神聞

霊界にはウソもウツもない。霊界の大新聞の社説より。「給油法なんてみみっちい、日本も戦闘だ!平和憲法なんて破棄だ!米国もそれを望んでいるし、国民だって本当は…」紙面をめくると五輪の話題でもちきり。若い野球選手が丸刈り頭で叫んでいる。「日の丸万歳!星野ジャパンよ、永遠に!」よく見ると日本人でない。どうも島国に永年住むとダレでも世界の広さを忘れるらしい。それで世界の現実を思い知るや、かえって盲目的に気が大きくなってしまう。ちょっと目を移すと今度は柔道で金メダルをとった選手が「試合は殺し合いだから生きて帰れて嬉しい」と号泣している。その下には『ウツの力』という本の宣伝が載っている。紙面をめくると人生相談に「夫がウツでセックスしてくれない」と妻が不満を寄せており、精神科医が「ウツのせいではなくセックスの遊びを知らないだけでは?ロウソクとかロープとかアナルとかいろいろ追求してみるべき」と答えている。再び社説の続きに目を戻すと、そこにはこう書かれていた。「国民だって本当は闘争心に飢えている。こんな紙っぺらの平和なんてウソだ!それが一億総ウツの原因だ!」

駿女

米国女子ソフトボールに美しいプレイヤーがいた。その駿足の美女はサラブレットのように金髪のポニーテールをなびかせていた。公式サイトで探すと髪はワンレングスのブラウンだった…。あれ?どっちがホント?金メダルにあやかって染めたのか?「星野ジャパンも丸刈りより、真っ白にしたら銀メダルくらいとれるのに」そういって現れたのは、坂本龍一。「僕もYMOの頃は黒髪がイヤでね。ほら、全米ツアーとか、周りみんな外人だろ?」「やっぱりブロンドに憧れたんですか?」「イヤ、司馬遼太郎さんみたいなのがいいなと思ってゲイシャガールズでは銀髪にした」「今もそれ、脱色してるんですか?」「いやいや、今はその必要ないから。自然なロマンスグレーだよ。でも、こういうのがあっちの人にはブロンドみたいなもんらしいよ」そういわれると、そのソフト選手、ヘルメットを脱ぐと表面は金だが微妙にマロン色のムラがある。やはり地毛はブラウンなのか。してみると、色は何であれ、微妙なムラが浪漫を喚起するものらしい。

仇花

「ねー、こんなこと書かれてるよー、ホントなのかなー」ベッドの中で彼女はケータイを男に見せた。「さあな、そんなタワゴト勝手にいわせておけ」男はメディア界を牛耳るボスだった。「ねぇ、今度こんなドラマに出たいなぁ…」乙女チックな寝物語を語って聞かせる彼女に「じゃあ、ディレクターにいっとく」まともに請け合う男。カネばかりかかる面倒くさい女よりはるかにラクで、しかも実益になるワガママだった。そして彼女も男の権力を利用して女優になる夢を叶えてきた。が、別に有名になろうとか、演技を磨こうとか、業界に居座る気はない。ただいつも気になるのは番組に寄せられる声なき声だった。「すてきだった」「ありがとう」という多数の賛辞にまぎれて「さいてー」という批判には、自分の立場も忘れて「そうだ!そうだ!腐った組織なんか亡びればいい」と共感してしまう。結局のところ彼女はカネと権力に流れていく妾にすぎないけれど、誰のものにもなり得ない代わりに誰のものでもある徒花であった。

後報

アフガンで殺された伊藤さんに会いにいったら意外な真実が。「犯人はやはりテロリスト?」「いや、それがさ、ITOCHUに頼まれたって…」「それで伊藤さんが?…でも商社が何で?」「ほら、例のテロ特措法で給油してるガソリン製造してるんだって」「ああ、じゃあ、期限切れになっちゃ困るんだ」「治安が悪いことを世に訴える広報が目的だとか」「人の命とひきかえに商売とはひどい!」「ほら、3、4年前に人質事件が立て続けに起こったろ?三人誘拐とか香田さん殺害とか。あんときも日本の外務省から武装勢力に依頼があったとか。それも特措法再延長のための世論喚起が目的だったとか」「ひでえ!そんなの世論操作じゃん!だけど確かに、あんときのメディアの報道も妙だったね。武装勢力じゃなくて、日本人人質に非難囂々の嵐で」「メディアスクラムの目くらまし作戦だろうな。今回も俺のことバカな奴だって非難されてるんだろ?」「いえ、今回は伊藤さんのお父さんが出ずっぱり」「なんて?」「さあ、悲しそうな横顔が度アップで」「とうとうおやじもメディアに身を売りやがったか…ちくしょう!いくらカネもらったんだろ!」「身の代金に比べりゃ安い金額でしょう」

現抜

大正から昭和にかけて芸者だった人に会いにいったら興味深い真実が。「どんなとこで働いてたんですか?」「いろいろよ。吉原を出てからは待合を転々と」「マチアイ?」「男が女を買う所」「え?遊廓以外にもあったんですか、そんな場所?」「カフェーの方があちこちにあったわね」「それも売春宿?」「そうよ」「まるでコンビニだ…それって違法じゃないの?」「知らない。警察の人なんか制服姿でしけ込んでたわよ」「それじゃ共犯だ…」「それが戦争が始まった途端、すべて営業停止だもん。みんな怒りまくってたわよ」「誰に?」「鬼畜米英」「そんなの彼らのせいじゃないでしょ」「知らないわよぉ。新聞もラジオも口をそろえていってたし」「それじゃあ軍部が暴走したってわかりゃしない…みんな色事にウツツを抜かしすぎて現実が見えなくなってたんじゃないの?」「あら、見え過ぎるくらい見えてたわよ。チンポの色とか形とか鮮明に見えてたし。…だけど空襲の後の屍体の山にはヘドが出たわ」

微象

宮内庁の広報担当とのウソのようなホントの話。「雅子様がご病気というのは真っ赤なウソです。それに、愛子様以来お子さまが誕生しないのも別に不妊症ではありません。皇太子様が雅子様をかばうご発言をされるのも、実は我々が用意した文面を読んでいるだけです」「すべて演技なの?それ一体、どういう事?」「雅子様はシンデレラなんです。つまり今の日本で一番、悲劇的な嫁キャラを演じておられるわけです。元キャリアウーマンで、仮面ウツ、不妊症、ひきこもり…世間の注目を集めるお役目なんです」「それって皇太子の役目じゃないの?」「それでは公務に差しつかえますし、そういった話題は男性より女性の方が敏感ですから」「それじゃ、お茶の間のタレントと同じだ」「失敬な!どこの芸能人が、あんな出ずっぱりでカリスマ性を保ってますか!?」「一言もしゃべらないで、ただ微笑してりゃ、誰だってモナリザになれらア」「おお!それだ!次の妃殿下はモナリザで行こう!」

霊戦

霊界の国会での一幕。憲政の神様、尾崎咢堂が世界連邦論を唱えている。「世界は一つ。国と国の対立感情は文化が低い証拠」すると会場から反発が「では、おまえは嫁と対立しないのか!」「嫁?ああ、ワイフね。そりゃ口喧嘩くらいするさ」「ならば国と国の喧嘩も認めろ!」「国と国では口喧嘩できまい。私は文化が高いから個人で対立する。君らは文化が低いから国で対立する」「なにをーッ!貴様!」群集も湧く。そこへ民主党の代表が「咢堂先生のいう通りだ。夫婦喧嘩があった方が家庭も健全なように、二大強国の争いがあった方が世界は健全なのだ。それが冷戦というフィクションの戦争なら口喧嘩と同じでないか」共産が横槍入れる「しかし前の冷戦はソビエトの崩壊によって終焉し、その後、米国は孤立し、イラク戦争は泥沼化し、国連は弱体化したではないか」民主代表「その通り。いまや新生ロシアにアメリカが対抗しうるか私は懐疑している」自民、それに反論「じゃあ、一体、どこの国が対抗できる?」共産「やはり中国か」民主代表「いや、わが国だ」会場騒然。「ムリムリ」野次も飛ぶ。「だから冷戦はフィクションだといっただろ。リアルな喧嘩を見せればいい」「どうやって」咢堂も関心を示す。「日本の映像技術が大いに役立つと考えている」それで咢堂も合点。群集に向かって「毎日ニュースでドンパチやってれば君らも満足だろ?」

齬呂

海外メディアより。「日本の与党第一党が名称を改めるという。その理由は語呂が悪いからだという。我々英語圏の人間にはわかりにくいが、jiminはjininと発音が似ていて、それは「辞任」を意味するのだという。わずか一年たらずで首相の辞任が相次いだことから「すぐ辞任する無責任な政党」というイメージを払拭するのが狙いだとか。名称は民主的に公募するという。記者でも知る日本語に「arigato」というのがあるので、是非それで応募しようかと思う。」

祝敵

霊界の戦場で開高健がベトナム人に話しかけた。「あれ?君は日本人か」「ええ、岸田秀といいます。よく間違えられるんで…開高さんこそ何でこんな危険なとこへ?」「この世には書かれ得ずして消されていく歴史が実に多いからさ」「所詮、歴史は勝者の記録ですからね。敗者の事実と照らし合わせて歴史の謎も解けるという点で精神分析と似てるんです」そこへ芥川龍之介が現れる。「さよう。精神にも勝者と敗者がいる。自分が「私」と思っているものこそ、自分史の勝者だ」岸田「じゃあ、敗者は?」芥川「さあ、ボンヤリした不安かな…」気まずくなって芥川立ち去る。岸田「勝者にとって不都合な事実が露呈されると歴史の根底も崩壊するんですよ。西欧のフランス革命がそうでしたし、日本にとっては終戦がそうでした」開高「だから15で終戦を迎えた僕にも解けない謎があった」「謎?」「なぜ日本が負けたかということ。そりゃ焼跡も闇市も見たし、日本軍のまずい作戦も後で知った。けれど敵を知らないし、戦地も見てない」「で、どうでした?」「アメリカは何一つ戦争を知らないね」「それでよく日本に勝てましたね」「原爆のおかげさ。ヤンキーは武器の威力に酔い痴れたジャンキーさ。日本の空襲もそうだったけど、ベトナムの空爆も目標なんかほとんどない無差別攻撃だ。あれじゃ、無闇に敵をつくるだけさ。でも、宿敵に殺された方が幸せかもしれないな。ベトコンの連中みててそう思ったよ」「じゃあ、戦死すりゃよかったじゃないですか」「そこまで宿敵じゃないよ、ヤンキーは。それがわかっただけよかった」「で、最期に宿敵は見つかったんですか?」「結局、いなかったね」

苦嘘

「ちきしょう!今日のところは勘弁してやるぜ」珍しくジャイアンに喧嘩で勝ったのび太。「ありがとう!ドラえもん!」泣いて抱きつく彼にドラえもん「ホント、あいつは降参しない奴だ。アメリカみたいに撤退しかしやしねえ。あんな喧嘩バカと戦ったって一生勝てないな」「こんな僕だってアヤトリと射的なら負けない」「そんなの武士道と同じで喧嘩にもなりゃしない。もう君は何も変わらないみたいだから僕は明日で未来に帰るよ」「えーッ!困るぅ!明日から僕も変わるよ!」「じゃあ、出木杉くんみたいな秀才になれる?」「ムリ」「スネ夫みたいにジャイアンの子分になれる?」「僕は口もうまくないし、やっぱりムリだよ」「じゃあ、一生ジャイアンにいじめられて、ジャイ子と結婚だな。ほら、これが未来のアルバムだ」そこには丸々と太ったジャイ子とたくさんの子供に囲まれて、小さくなったのび太の姿が。「こんな未来はいやだ!僕はしずちゃんと結婚するんだ」「僕だってそうしてもらわないと困るからこうして過去を塗り替えにきてるんじゃないか」「だけど僕がジャイ子と結婚するとして、それなら、どうして君はここにいるわけ?」「すべて君の空想だからさ」「じゃあ、さっきジャイアンに勝ったのも…」

合烏

霊園の池を集中豪雨が襲い、泥水と土砂でかつての面影は消えた。のどかに泳いでいた鯉もどこかへ消えてしまった…と思いきや、ポカッと口が浮かんできた。死んでる?と思いきや、ちゃんと泳いでる。赤黒っぽいウロコをぎらつかせて潜った。どうやら一匹だけ生き残ったらしい。と、その時、鯉のつぶやきが聞えた。「まったくとんだ災難だったぜ。こんな汚ねえ泥池になっちまって、あーあ、昔はよかった…」ダメもとで話しかけてみた。「ほかの鯉は?」答えがかえってきた。「さーな。底の方に沈んでんじゃねえか」「川に住んでれば助かったかもしれませんね」「まーな。けど川には天敵も多いし、エサを自分で捕ったり、流れに逆らうのも結構しんどいし、ここはぬくぬくと居心地がいいからな、一度住んだらやめられねえ」「人間界にもそういう場所ありますね」「へー、どんな奴らが住んでんだい?」「総裁選に出るような烏合の衆です」「じゃあ、そいつらも豪雨にあったら俺みてえになっちまうかもな」「いえ、カラスですから大丈夫です」

秋桜

霊界のカールセーガンに会いにいった。「ここにも宇宙人はいるんですか?」「いるよ。僕は三回コンタクトした」「どんな風貌でした?」「懐かしかったね。亡き母のようにそりゃきれいだった。君は恋をしたことあるか?」「ありますけど」「まさしく恋人が宇宙人だ」「サンタクロースって歌が日本にもありました」「そういえばカトリック系のお堅い連中が科学者にも多くてね、恋人の話もだけど、宇宙人の研究も相手にされなかったよ」「あなたも科学者でしょ?」「僕はユダヤ系だから学会のような信仰心がなくて」「そんな異端者がよくNASAで活躍できましたね」「冷戦のおかげさ。あの頃は軍事より宇宙開発にふんだんにカネが使えたからバンバン探査機を飛ばせた。科学にとって幸せな時代だったね」「あなたが死んでからアメリカはまた戦乱の時代になったんです。ネオコンのような信仰心の篤い連中が政界にも台頭して」「そろそろ宇宙人が必要らしいな」「恋人ですか?ソ連ならとっくに崩壊してますが」「いや、宇宙人はときに地球の脅威だ」「脅威といえば…近頃の科学者はしきりに地球温暖化と叫んでます」「きっと彼らの亡き母は沸騰中のヤカンみたいに怖かったんだろう」

桜散

小泉元首相が横須賀に近いhideのお墓を訪れた。「やはりあれは自殺だったのかな?」拝みながら呟いていると墓石の中からhideの声が…「X JAPANじゃない自分なんて自分じゃないから」「わかる!僕も自民党じゃない自分なんて自分じゃない。ブッ壊したいほど愛してた」「じゃあ、なんで引退したんすか?まさか愛する自民党を裏切るつもりじゃ?」「一時はそれも考えたよ。新党をつくろうとか」「あ、それ僕のソロ活動みたいなもんすね」「うん。でも全部やめた」「なんで?」「君だっていくらソロでやってもX JAPANを捨てられなかったろ?X JAPANの栄光とともに散ったからhideはいつまでも美しい伝説のままだ。だから僕も美しいまま過去を封印することにしたよ」「なんだか、それってキャンディーズの解散みたいっすね!?」「もうすぐ春ですねぇ…ちょっと気取ってるかな?」「いいんじゃないっすか?気分はいつも春で」「僕も君みたいに頭染めようかな?桜色に」「ずっと散らないようにね」

金由

霊界のジミヘンドリクスに今の米国の金融危機について尋ねたらロックンローラーらしい答えが…「結局、マネーゲームってのはドラッグと同じなのさ」「あなたがそれで死んだように米国も?」「さあな、けど、あの晩は悪夢だった。水で薄めたような安いワインで悪酔いしちまって睡眠薬で落ち着こうと思ったら意識が戻らなくなって」「何でそこまでして酔わなきゃならないんですかね?」「自由ってのは、そういう病気なんだよ」「米国はそれを世界に広げる伝道者ですよね?それってみんなをジャンキーにしようっていう…」「そんなつもりはないんだよ。俺だって最初は延々とギターソロを弾くような奴じゃなかったんだ」「弾いてる本人はいいですが、みんな退屈ですよね。音楽に一番大事なのって何でしょう?」「Rock&RollならRollの方だ。指よりコイツを動かせってことさ…」そういって彼は踊りながら背中や舌でリズミカルにギターを弾き始めた。「じゃあ、経済もそうやってロックンロールな感じでブッ飛ばせば…」「丸く収まる」

莫迦

ときは昭和28年2月28日。総理大臣、吉田茂の国会答弁をラジオで聞いていた米軍の幹部が通訳に問いただした。「今のは何て意味?」「無礼とは昔の殿様が家臣に対して礼儀がない時に使った言葉です」「レイギとは何かね?」「自由の国アメリカでは耳慣れない言葉かもしれませんが、位の高い相手を敬う気持ちでしょうか」「じゃあ、今、ヨシダが小声で言ったのは?」「オー!ユーアー・フーリッシュマン!」「何をッ!通訳のくせに私を侮辱するのか!」「だからそういう意味です」「…ひどいな。これじゃ、サムライの時代に逆戻りだな。やはり日本に議会制民主主義は根付かないのかなア」「そうかもしれません。バカヤローだけじゃなく、アホというのもコメディアンがよく使う言葉で、本来は侮辱的な意味ですが、むしろ仲のいい相手への親愛の言葉として通用してます」「そんなケンカのできない民族がよく我が国に戦争を挑んだものだな」「さあ、それも親愛のつもりだったのかもしれません」

写動

ある日、自分の影がしゃべりだした。悪いジョークも多いが、もっともなこともいうのでいうとおりにしていたら、自分は結婚しカネ儲けまでするようになっていた。しかし、よくよく考えてみれば、それは影が結婚してカネ儲けをしてるのだった!肝心の自分の方がまるで影のような存在で、その証拠に手足の感覚はうすれ、知らぬ間にやたら傷ができている。何を食べても無味乾燥。どんな美人を見ても立たない。このままではヤバイと思った自分「やい、影ッ!オレより人間らしくするな!」と談判。すると影はあざ笑うように「お前こそ、誰のお陰でこの世にいられると思ってるのだ?見ろ、経済市場のために公的資金が出動している。いまや、影が主役で人間は脇役なのだ。アッハッハ!」気が動転した自分は決死の覚悟で影をハサミでちょん切った!すると影はスルスルと人ゴミの中に逃げ去ってしまった。以来、自分は影のない人間になり、くもりや雨の日しか人前に出るのが恐くなった。「影の奴め!今頃どうしていやがるか!」毎日、影の不幸を思い描いていたら、不思議なもので、だんだん新しい影が生えてきた。やっと近頃では天気のいい日にも人前に出られるようになったが、もう影のいうことは二度と聞くまい。

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